第37回公害・環境デー 基調報告(案)
2008年12月、ポーランドのポズナニで開かれた国連気候変動枠組条約第14回締約国会議(COP14)は京都議定書第4回締約国会議(CMP4)の約束期間(2008から12年)以降の、2013年からの温室効果ガス排出削減のための国際的枠組みを策定するための重要な会議でしたが、前向きのメッセージを出すことなく終了しました。
このような結果になったのは日本などが京都議定書の確実な実施の目途も立たないまま、中長期計画を明示しなかったことに根本的な原因があります。このため日本政府は世界のNGOから「化石賞」受賞第2位という醜態をさらしました。
こうして決着は来年のコペンハーゲン会議にずれこむことになり、原案作成の6月まで交渉を加速されなければなりませんが、何より日本政府の姿勢を抜本的に改めさせる必要があります。
第一に、日本は温室効果ガスの排出量について1990年を基準に2008〜12年までに6%削減する、という京都議定書にもかかわらず、逆に2007年には8.7%(暫定値)も増やしています。議定書の遵守のため、環境税や国内排出量取引などの導入を含め、経済界に確たる排出削減を求める必要があります。
第二に、2020年までに25〜40%削減から、さらに世界全体の温室効果ガス排出の頂点を早め、2050年までに半減させる具体的な長期計画を明示すべきです。
アメリカのオバマ新大統領も気候変化問題の施策の転換を表明しています。その真意と今後の経過は見極める必要がありますが、このままでは日本だけ孤立して、先進国の中で最悪の役割を果たすことになります。
経済産業省や電力業界などは。二酸化炭素排出削減の決め手と称して原子力発電の推進をもくろんでいますが、実際には事故による長期停止などでCO2削減の有効性は限られているばかりか、大地震の震源地域での耐震性や事故の危険性、放射性廃棄物の処理・処分問題など将来の世代に大きな負担を強いるものです。
東海地震の想定震源地域の真上にある、中部電力浜岡原発の1、2号機の廃炉が決まりました。しかし代わりに140万キロワット級の6号機を新設するというのでは新たな問題が生じることになります。
国際社会が気候変化の悪影響防止策に立ちおくれている中、世界各地で気象災害が頻発しています。日本列島では2008年夏に各地で「ゲリラ豪雨」が発生し、大きな被害が続出しました。専門家によると、今後100年間に、1日100?以上の大雨の頻度は3倍になる、との予測がなされています。
2008年3月、日本建築学会のシンポジュウムで大阪市街地の直下を走る上町断層帯で発生する地震のシミュレーション結果が報告され、特に構造物に大きな影響を及ぼす「揺れ」「速度」が、これまでの想定の5倍、阪神・淡路大震災の実測値の2倍以上にあたるというショッキングな予測が示されました。
また、大阪府・市が独自に試算した被害想定は、国の中央防災会議の被害想定120万人を上回る142万人とされています。
一方、21世紀前半に発生が予想されている東南海・南海地震の同時発生では、被害地域の広域性、津波被害の甚大さ、巨大地震の時間差発生、地震動が1分〜3分と長いことなど、かつてない大規模被害が予測されています。阪神大震災の経験を踏まえ、ライフラインと言われた電力・ガスや高速道路橋脚の耐震化はすすみ、復旧目標も立てて進んでいますが、個人家屋や教育施設などでの耐震化や緊急時の体制は万全とはいえません。ここ数年、多発する台風・集中豪雨なども含め、安全・安心の街づくりのために、住民参加型の防災計画策定やその実行部隊の体制確立など地方自治体の役割が大きくなっています。
2008年1月31日未明に始まった「中国産冷凍ぎょうざ」中毒事件報道は、食の安全を願う消費者を震撼させました。これまで起こっていた産地・日付・使い回しなど偽装事件とは違い農薬に使われる薬物よる中毒事件であったからです。その後も、「事故米」「冷凍いんげん」「メタミドフォス」「カップヌードル」「伊藤ハム」等々、食品汚染問題は良心的な製造・流通業者も巻き込んだ社会問題になりました。これら諸問題を、「食の安全・安心」という視点で考えると、1985年の「市場開放アクションプログラム」以降、24時間以内に流通させることを至上命令に行った輸入商品の「基準認証制度」の大幅な規制緩和、食品添加物や残量農薬等基準の国際平準化、輸入食料品等の増加に見合う監視員の増員どころか逆に当該分野をリストラ・民営化対象にしてきたことなど、世界に誇る日本の「公衆衛生行政」を大幅に弱体化させてきた政治のツケが、ここにきて顕在化してきたのがことの本質です。
すでに食料の6割を海外に依存し食の国際化が進展するなか、今回の問題を業者責任や個人責任だけですますのではなく「大いなる政治課題」であることの認識をもち、今後も学習し制度向上に向けた運動を強化しなければなりません。
大阪府・市、経済界などは、大気汚染をはじめ大阪の公害はほとんど解決されたかのように宣伝しています。しかしそれは大気中のNO2濃度が「環境基準の上限値である0.06ppmを越えないこと」に達した地点が増えた、というだけであり、光化学スモッグ、酸性雨など問題は山積しています。
現に幹線道路沿道を中心にぜん息などの健康被害が発生しており、大気環境はまだ安全とは言えません。NO2濃度のカプセル測定など住民の自主的な測定運動によって大気汚染の実態を明らかにするとともに、その低減策の実施と健康被害の救済を要求していくことがますます重要です。
2008年11月には、自動車排ガスなどによるぜん息など大気汚染健康被害者の調査と救済、環境基準の強化を目指す「あおぞらプロジェクト大阪」が発足しました。大阪市を中心に旧公害指定地域で公害病を患いながら未認定・未救済の人々の実態調査と救済を成功させ、きれいな大気環境を取り戻すために、この運動に積極的に協力しましょう。
PM2.5やナノ粒子など微小な浮遊粒子状物質による健康被害が最近とくに重視され2008年12月には「環境省はPM2.5の大気中の濃度について新たに環境基準を設定する方針を決めた。近く中央環境審議会に諮問し、来年中にも基準を作る。」と報じられましたが、これは東京大気汚染裁判など国民的な運動と世論の成果でもあります。WHOの指針を参考にPM2.5の環境基準が早期に制定されるよう、国や審議会の動きを注視し運動を強めていく必要があります。
今年も大阪のヒートアイランドにともなう熱中症の犠牲者は増え続けており、すでに深刻な人権問題となっています。これは明白な人災というべきでありです。もはや「ミスト」を撒くような姑息な手段では解決策にはなりません。人工熱の削減、水面と緑の拡充こそ求められます。当面お年寄りなど社会的弱者への救援策は急務です。
泉南地域のアスベスト被害者による国家賠償請求の裁判は2010年春には判決が出る段階になりました。現地、原告、弁護団を中心に「大阪泉南地域のアスベスト国家賠償裁判を勝たせる会」が結成され、裁判所に対する30万人要請署名など多彩な運動が提起されており、公害・環境デーにつどう私たちもこの運動に積極的に参加していきましょう。
ここ数年、各自治体では一般ゴミ収集の分別排出と有料化が強行されてきました。有料化が減量化の決め手であるかのように宣伝されてきましたが、2006年度の大阪府の一般廃棄物排出量は約420万トンと、ここ5年の推移を見ても約19万トン、4%の減量にとどまっています。ごみ行政の民営化が進み、委託・許可業者収集が6割を超えるなか、減量化への積極的な取組がしにくくなっている状況も現しています。
有料化は、自治体負担型の「容器包装リサイクル」のツケを市民に回すもので、結果として生産者責任を免罪し、法が目指す「ごみ減量」「循環型社会」化に逆行します。
また、リサイクルを錦の御旗に各地ですすめられている「廃プラスチック再生工場」による住民の生活環境汚染の危険性を見逃すことはできません。日本のごみ政策の根本問題は、製品を造る過程から廃棄物を減らすという上流対策を欠落させていることにあり、OECDが推奨する「生産者責任」の確立こそ、緊急の課題です。
寝屋川の廃プラ処分場建設の差し止めを求める住民訴訟について、大阪地裁は原告側の健康被害の実態に基づく正当な請求に耳を貸さず、不当な判決を下しました。住民側は控訴してたたかいを継続していますが、ここでも府民的規模で世論と運動を盛り上がりが求められています。
橋下大阪府知事は開発・環境をめぐる課題でも見過ごせない方向に暴走しようとしています。知事は「地方分権」をいいながら、府庁を南港のワールドトレードセンター(WTC)に移転させて、ここを「関西州」の「州都」にし、大和川線など高速道路建設を促進しようとしています。さらに、公害認定患者の死亡見舞金の一方的打ち切りも、患者の願いを無視し強行しようとしています。こうした、強権的な府政に抗し、府民の率直な批判と反撃が重要です。
大阪市や各市町村の公害・環境政策にも著しい後退がみられます。大阪から公害をなくす会では、府内43自治体に温暖化防止対策にかかわるアンケートを実施し、41団体から回答を得ましたが、多くの自治体は自分の市の二酸化炭素排出量さえ意識していません。市民に密着した自治体の積極的な計画方針が必要です。各地で自治体との話し合いを強め、市民と力を合わせて地元から温暖化対策に取り組む計画作りを進めましょう。
本集会には多くの心ある市民が集い、各地の住民運動、民主的団体との協力の実態が報告され、それらの教訓が語り合われることが期待されます。これらの成果を広く府民に伝え、府民共有のものにしていきましょう。市民が手をたずさえて立ち上がるためには、何よりも正しい情報が必要です。行政や、企業などにも徹底した情報公開を求めていきましょう。私たちは国民主権の原則を貫き、国、自治体の施策のあり方を国民本位のものに変えていかねばなりません。
韓国から来られた若い人たちとの交流が得られたことは貴重な経験です。海を越えて心ある市民との国際連帯が世界を変える原動力となりつつあります。
「100年に1度」ともいわれる経済危機の中だからこそ、低炭素社会の実現を目指して温室効果ガス排出を抜本的に減らし、再生可能な自然エネルギーの開発を進め、社会のありようを環境優先、人間性重視に切り替えていくための制度、施設、産業の強化拡充に向けて、ヒト、カネ、モノを思い切って集中する施策で、環境の確保と不況の脱出を目指します。
最悪の環境と人間性の破壊は戦争です。私たちが目指す持続可能な社会の最大の保障は平和であることです。平和とは単に戦闘行為のないことを意味するのではなく、人間相互の変わらぬ自由と秩序・安寧・平安などを実現・維持している状態でなければなりません。これこそ正しく日本国憲法において確立した理念です。
政局の混迷が続く中で改憲への動きが止まっているようにも見えますが、日本を再び暗黒の国に引きずり降ろそうとする勢力がその意図をあきらめたわけではありません。大阪から公害をなくし、地球環境を守り、環境の保全・再生をめざす私たち大阪府民は、「九条の会」をはじめ、全国津々浦々で行動する人びととの協同の輪を広げ、日本国憲法で平和、環境、くらしを守るため立ち上がりましょう。
今日一日、限られた時間ですが、みなさんの熱心な話し合いから、この国を、社会を変える道を明らかにしていきましょう。集会で得られる成果をもとに多くの人びととの対話を広げましょう。