防災まちづくり研究会
大阪自治労連 荒田 功
東日本大震災での甚大な被害を及ばした海溝型の地震が、この大阪でも30年以内に必ず起こると言われている中で、防災対策は緊急の課題となっている。
そこで東日本大震災での甚大な被害の実態を教訓として、大規模災害に対して住民の命と暮らしを守るための課題を明確にしていこうと、自治体問題研究所、大阪自治労連、大阪から公害をなくす会の三者で一昨年の11月29日に「防災まちづくり研究会」を発足させた。
1)自治体の防災計画(43市町村地域防災計画アンケート)と
2)防災体制の実態調査(府内23市と府の自治体職員5700人を対象にしたアンケート)や
3)自治体防災担当職員に対するヒヤリング(5カ所)
1)43市町村防災担当者対象アンケート調査(52項目)から得た特徴的な事項
〔地域防災計画について〕
市町村地域防災計画は、毎年検討を加えて必要があるとしているが、実際には、2005年以前から修正されていないのが8市町村、また、計画単位小学校単位で計画があったのは1市。策定に関与している委員に専門家や研究者、住民参加がない。
〔情報提供と住民との連携について〕
全市町村で防災マップは作成しているが、新しい情報に切り替わっているのかとその周知が課題。行政の課題としては、無線のデジタル化や充実(16)、要支援者への情報提供(6)、停電(3)と答えている。災害非常時の情報提供は、防災無線や広報車であるが、予算を増やして無線を整備すること、社会的弱者への周知や避難誘導が課題。住民団体との連携としては、24自治体で自主防災組織と、7自治体で医師会、2自治体で住民に対して出前講座を行っている。
〔防災対策(ハード面)について主に耐震化〕
公共施設の耐震化は 保育所52% 幼稚園59% 庁舎58% 公民館60% 中学校66% 小学校69%
耐震基準は、昭和56年6月1日に導入されたので、それ以前の建物は耐震化基準を満たしていない。小学校の耐震化では、国庫補助率が3分の1から3分の2に引き揚げられたのをきっかけに、一挙にすすんだことをみても国の果たす役割は大きい。個人住宅の診断耐震化とも助成は37団体と多い。しかし、助成比率が低いので、1自治体で年間30件程度しか利用されていないのが現状(堺・茨木市でのヒヤリング)
〔避難所・備蓄・ライフライン問題〕
避難所は主に小学校であるが、徒歩10分以内で行きつけない地域もある。備蓄は最低の基準を満たしているもののアレルギー食や乳児用ミルクなど課題があり賞味期限切れによる買い替えの予算しかなく、また、浸水しない備蓄場所の検討や災害時トイレの設置など課題は大きい。
〔災害時の行政機能・職員体制〕
1番の課題が人員問題で21団体中15。府内の自治体職員が、現在では阪神淡路震災後の68%に削減。特に、病院の独法化や保育所の民営化、現業(清掃、学校給食など)、水道など委託により専門職や技術職の削減は大きい。
2)防災体制の実態調査(府内23市と府の自治体職員5700人を対象にしたアンケート)
災害などの非常時に、最前線で適切な判断や行動が望まれている自治体職員が、その専門的な役割を果たせる体制になっているのかと問い、これからの災害時の職員体制の課題を明らかにしていく目的で実施。
〔訓練・研修参加〕
通常業務があるため全職員対象で行っていないことや防災担当が他の業務を兼ねているため、訓練や研修の計画の具体化が後回しになってしまっている。自由記述欄には、「従来の筋書き通りの訓練ではなく、大規模災害をシュミレーションした訓練をしてほしい」とあり、責任を持って仕事をしたいという思いがある。
〔緊急参集配置場所〕
実際の災害時の任務についても、約30%の人が配置場所を認識いない現状で任務が徹底されていない。
〔時間外災害時参集時間〕
住民の命を守るためには災害時の初期の段階で適切な誘導が必要ですが、市外通勤者が多く、配置につくまでに2時間以上かかる職員が15%もいることは問題。
〔職員対象アンケートとこれからの取り組み〕
大阪自治労連は、このアンケート結果を自治体当局にも示し、住民の「いのち」をまもるためにも人員の適正配置と自分自身の仕事の専門性を高め仕事に対して責任を負うことができる取り組みをすすめている。
3)自治体防災担当職員に対するヒヤリング(5カ所)
地震により予想される災害特性により自治体ヒヤリングを行い、今後の対策を考える
?孤立化(茨木市) 避難所での救護所設置、孤立地域に無線配置、自主防災組織との連携
?液状化(松原市) 液状化の調査はしておらず、公的施設の液状化対策が課題
?山沿い(千早赤阪村) 地区ごとに住民参加で過去の経験を加味してハザードマップを作成
?津波・コンビナート(堺・高石市)コンビナート企業の発信する情報任せで市独自の避難マニュアルがない
防災学習施設の見学(津波・高潮ステーション・阿倍野防災センター・人と未来の防災センター)やコンビナートや防潮堤調査そして、阪神淡路大震災後の復興問題についての実態調査
4月7日(土)「人と防災未来センター」見学と長田区再開発地区のフィールドワークに参加感想 「人と防災未来センター」ではあらためて阪神大震災の被害のすさまじさに圧倒されましたが、救援や復興の過程を含めて膨大な資料が蓄積されてあり、学習に「使える」施設と感じた。長田区へ移動して見た再開発地区では、きれいな商店街が再生されていたが、それは表向きの「復興」であり、震災から17年、地区はシャッター通り化がすすみ、「長田のために」と再開発にのった商店主らが「復興災害」「復興という名の地獄」にあえいでいることがわかり衝撃を受けた。現地を見、話を聞かなければわからないことで現地調査の重要性を感じた。
津波・高潮ステーション参加感想
?海より低い場所に108万人が住んでいる大阪と浸水想定
?防潮扉や水門と水防団の役割とその限界
?津波からの避難方法
?コンビナート火災の不安
現在の防潮扉や水門では津波は防げないし、東日本でも水防団・消防団が犠牲になった。津波からどこに避難すればいいのか?避難ビルの指定も未整備である。
?地下街高層ビル
・地下街通行者100万人の避難誘導、止水板の設置や電源の確保
・ビルが長周期振動することによる大きな揺れによる命の危険性
?コンビナート・防潮堤
・施設の耐震や津波によって漂流物による破損想定の危険(火災、化学物質飛散)
・0メートル地域の浸水対策と避難誘導
?木造密集地
・道路整備や避難地の確保や延焼を止めるためのスポット公園の設置、燃えにくい建築素材の使用推進、個人住宅の耐震化の推進
?液状化
・専門家による診断(ボーリングや開発の前の地図による調査)と、その情報を広く公表
・液状化での損害補償制度や土地改良制度の新設
?山沿い・ノリ地
・府の土木事務所が把握している危険指定箇所情報を住民に明らかにし、府が市町村と連携した対策
医療・水道・保育・地域保健・地域福祉
地方整備局では近畿でも33事務所76出張所がある。災害時、早急にライフラインを確保するための前段階としての道路や港湾整備に、一定の機材とその技術を保有している。全国どこで災害が起きても全国同じ機材(衛星通信車、ポンプ車、夜間照明車など)と技術を整備しているからこそ、大規模災害にも対応できている。(東日本大震災 くしの歯作戦―4日間で15ルート整備)
シンポジウム(3月2日(土)13:00開催予定)の以後、各地域単位での草の根の取り組みをすすめていく。具体的には、地域自治会(自主防災組織)や消防団、民間医療・福祉施設等とのヒヤリングや地域団体と共同した自治体への申し入れなどに取り組む。