第7回ソラダス2012実行委員会
委員長 西川 榮一
大阪から公害をなくす会では、天谷式簡易測定法を利用して住民自らの手で、大阪全域にわたる大気中二酸化窒素(NO2)濃度をいっせいに測定する運動を続けてきました。今回の第7回ソラダスは、前回から6年が経過し、実行委員も含め多くの方が未経験での取り組みでしたが、皆さん方の献身的な協力により、2012年5月17〜18日実施することができました。
表1のように実施日の参加は4,384人、設置カプセルは9,468個、健康アンケートも4444枚回収され、“府民が自らの手で大気の汚れを測る”というに相応しい取り組みとなりました。ご協力頂いた大気汚染公害患者、民主団体・住民団体、環境NGO、医療団体、労働組合、生協、自治体議員、地域の住民の方々に深く感謝いたします。
最初のソラダスは1978年でした。当時公害被害者らの運動に対する産業界などからの巻き返しの動きが強まり、1978年はNO2の環境基準が、それまでの2〜3倍に緩和されるという、公害行政が大きく後退した年でした。大阪では、大阪市をはじめ、その周辺の都市域など広い地域が公害指定地域になっており、大勢の住民の方が大気汚染公害病で苦しんでいるのにこのような暴挙は許せないとして、このいっせい測定運動が取り組まれたのでした
1回目から数えるともう34年も続く長い運動になっています。1978年、当時の環境庁は、環境基準を7年以内に達成するとしましたが、その後汚染改善は遅々として進まず、34年経った今でも、なお環境基準未達成の地域が存在します。窒素酸化物、粒子状物質などの主な汚染源は自動車、中でもデイーゼル自動車です。自動車排出ガス対策として導入されたNOx・PM法、その基準達成目標年度は2010年でしたが達成できず、道路沿道では今も深刻な汚染が続いています。驚いたことに環境省は、基準達成目標年をさらに10年先、平成32年へと先延ばししました。環境行政は怠慢と言わざるを得ない状況にあります。
NO2汚染は今も決して安心できる状況ではありません。学校保健統計によれば小・中学校学童、高校生などのぜん息被患率は年々増大しており、中でも大阪の被患率は全国平均を大きく上回っています。最近発表された環境省の調査でも、自動車排ガス汚染による健康影響が明らかになっています。
信頼できる、正確で的確な大気環境監視(汚染濃度の測定)は、すべての環境行政の出発点となる基本資料です。環境行政の怠慢、後退を許さず、1日でも早く大気をきれいにして、大気汚染病に苦しむ人々をなくしていくために、住民自身による大気汚染の監視という、このソラダスは重要な住民運動と言えます。今回実施されたソラダス2012の主な内容を、別紙の冊子にまとめております。
◇大阪全体の大局的汚染分布 (図4)
*大阪市域を頂点に周辺へ広がるという汚染分布が依然変わらず続いています。
*大阪の北部では西〜北風が、中央部では西風が、南部では西〜南風が卓越したため、今回のソラダス2012は、とくに北部、南部ではNO2濃度が低い日に当たっていました。(図2)
*大阪市を含む中央部では、沿岸部の汚染が内陸域に侵入し、府境界の山域まで及んでいました。
◇依然深刻な高濃度汚染が続く地域が存在 しています。
*今回は気象の影響で濃度が低い日(図3)でしたが、それでも港区、大正区などでは環境基準の上限値を超える地点が存在し、依然高濃度汚染が続いています 。
*住之江区南港地区など埋め立て地区はフェリー港やコンテナふ頭などによる船舶交通と大型重量車交通という2つの汚染源が重なり、高濃度汚染が生じています。
◇NO2汚染には自動車排出ガスが決定的な影響 を及ぼしています。
*幹線道路沿道の測定では、多くの地点で高濃度であり、自動車排出ガスの影響が明瞭に見られました(図5)。
*43号線と阪神高速道路の沿道、さらにこれらと幹線道路との交差点などでは環境基準上限値を超える高濃度になっていました。改めて自動車とくにデイーゼル車の排出ガスの影響の強いことが明らかになりました。
*NO2とPM2.5の間には相関関係がみられました。
*PM2.5の組成については変化が大きく、結論的な傾向を見出すにはさらに調査が必要とみられます。
◇幹線道路沿道居住者の健康状態(図6)
沿道居住者と非沿道地域居住者の回答を比較すると、全回答者、15歳未満、喫煙者、非喫煙者のいずれのグループで比較しても、沿道居住者の方が呼吸器等症状の有症率並びにぜん息診断率が高いことがわかり、道路の健康影響を明確に示す結果になりました。
◇NO2濃度とぜん息診断率
大阪市、その隣接都市、その他地域の平均NO2濃度をみるとこの順に高く、ぜん息診断率も同じ順に高いことがわかり、NO2濃度との相関がみられました。他の項目の有症率では、大阪市が多くの項目で最も高い有症率になっていました。
◇ぜん息診断率は、NO2濃度の高い地域や道路沿道の居住者で高く、大阪の大気汚染の抜本的改善、ぜん息患者に対する医療助成など救済制度の改善の緊急性があらためて明らかになりました。
◇アンケート結果は、呼吸器系に限らず、諸症状も含めた総合的でより充実した健康調査、またNO2以外のPM2.5、オキシダント(オゾン)、揮発性有機化合物などによる健康影響調査の必要性を訴えていると考えられます。