府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所の統合と独立行政法人化の問題点

公衆衛生研究所の府立存続と発展をめざす会
奥村早代子

1.地方衛生研究所

 大阪府立公衆衛生研究所(以下、公衛研)は、大阪府が設置する地方衛生研究所(以下、地衛研)として府民の健康とその安全を守るため、感染症・食中毒といった健康危機事象の原因を究明するための検査を行うとともに、食品や医薬品、家庭用品、水道水等の安全性確保のための検査を日々行っています。環境放射能については、国からの委託を受けて大阪府域の調査を継続して行っています。

 公害に関しては、昭和38年に公害部が設置され、昭和43年に公害監視センターが設立されて、公害関係調査業務は公害監視センターに移管されました。その後、昭和46年に公害衛生室が新たに設置され、環境や公害に関する健康調査を行い、大阪府の環境衛生行政に大きく貢献してきました。しかしながら、平成15年に公害衛生室は廃止され、現在は生活環境課でその役割を引き継いでいます。

2.全国79か所、すべて公立運営

 地衛研は、全国の都道府県や政令市、特別区など全国に79あります。2000年の独立行政法人法施行以降、国や地方自治体の研究所が次々に独法化されてきました。しかし、健康危機管理に関係する研究所については、国も(国立感染症研究所や国立医薬品食品衛生研究所)地方自治体もすべて公立で運営しています。新しく政令市となった岡山市は、現在は市立の衛生研究所を持っていませんが、平成27年4月から新たに地衛研を運営する予定となっています。

3.求められるのは公衆衛生の機能強化と充実

 国は、地衛研を設置する地方自治体に対し、強毒性の新型インフルエンザ等の感染症や広域化する食中毒の発生に備え、地域保健対策の科学的かつ技術的中核機関として地研の一層の充実強化を図るように求めています(2012年7月31日付健発0731第8号厚生労働省健康局長通知)。

4.なぜ、大阪だけが公衛研と環科研を地独法化するのか???

 大阪府は、公衛研を平成26年4月に大阪市立環境科学研究所と統合して地方独立行政法人(以下、地独法)とする作業を進めてきましたが、大阪市会でそのための条例の可決が得られず、実行できませんでした。しかしながら、平成26年度中の統合独法化を目指すとして、大阪市会での可決を待って直ちに実行する方針のままです。

 公衛研の地独法化は、知事・市長が大阪都構想実現のために、「二重行政」と決めつけて統合を進め、「独法でも今まで通り健康危機管理に対応できる」と決めつけ、参与が示した「独法も行政機関の一形態である」を真に受けて、「独法化しても今まで通りだから」、「何の問題もないから大丈夫だ」と決めつけて、具体的な問題点の検討を行わずに、トップダウンで手続き上の作業のみを進めています。

 地独法とは、「地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないものを行わせる機関」です。大阪府と大阪市は、主体的に府民の健康と安全を守る業務を投げ出すことにほかなりません。

5.イギリスでは、独立行政法人化で公衆衛生が後退し、再び公的組織に

 イギリスでは「小さな政府」の方針のもと、さまざまな行政機関が民営化されました。公衆衛生も例外ではなく、国民の健康は、医療を無料化することで達成されるという方針のもと、衛生研究所が独立行政法人化されました。しかし、感染症の拡大が抑制できないなど、公衆衛生行政が大きく後退しました。イギリス政府は、健康危機管理にかかわることは「民営化」「独立行政法人化」はなじまないと判断し、2013年に公衆衛生体制は国民の健康保護にかかわる政府の責務を担う組織であり、専門組織としての特徴を発展させ、行政当局の権限も使える存在として格上げし、保健省そのものの組織として一体化しました。現在イギリスでは、公衆衛生行政と公衆衛生専門組織、検査分析機関が一体となり、相互に結びつき、地域レベル、国レベル、EUレベル、世界レベルにつながる体制となっています。

6.国会でも地衛研の充実強化が議論

 平成25年5月9日には、参議院総務委員会で、総務大臣と厚生労働副大臣により、地衛研の必要性と国の衛生部門の研究所が独法化しない理由が示されました。さらに、総理大臣に対して意見主意書が平成25年6月と11月の2度、提出されました。

 平成26年以降の厚生科学審議会感染症部会の議論では、地衛研における検査業務の弱体化、習熟技術の減少などが懸念されています。

 平成26年11月6日に開催された参議院厚生労働委員会では、『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の一部を改正する法律案(閣法第二一号)』が可決されました。そして、その附帯決議が行われ、9項目中の第4項目として、「地方衛生研究所が果たす役割の重要性に鑑み、地方衛生研究所について、感染症対策における位置づけを明確化し、国立感染症研究所との連携が強化されるよう配慮すること。」が盛り込まれました。委員会の議論では、「地衛研の役割は非常に重要で、地衛研という組織そのものの位置づけについては、地域保健法あるいは地域保健の体制という観点から、別途、検討が必要かと思うけれども、どこまで法定化するというものについても調整が必要」と政府答弁がされました。

7.府民の健康・くらしの安全を守る仕事は独法ではできない

 地衛研の業務、その中でも最も大事な「健康危機管理に対応する業務」は、公衛研が普段から高い検査技術を維持し、国や保健所、行政機関との連携を取って業務を行っていたからこそできたことです。

 地独法では、民間委託や指定法人の活用等、徹底した効率化を図ることが求められます。つまり、業務が切り刻まれて検査が民間などに委託され、予算が削られ、分析機器や標準試薬の整備ができなくなり、人員削減が日常的に行われ、技術の継承ができなくなり、年々、健康危機管理に対応する能力が低下し、そう遠くない将来に府民の皆さんへの影響が現れるであろうと考えます。

 公衛研が果たすべき役割やこれまで行ってきた地道な業務は、地方自治体が主体的に行うべきものであり、効率化や効果を優先する独法ではできません。

8.独法化を阻止する運動

 「公衛研」は府民の健康危機管理に対応する唯一の行政機関でありながら、その存在は府民の皆さんに認識されていません。地独法化を阻止するためには、「公衛研は大阪府が責任を持って府立で運営しろ」という住民要請が大きな力になります。

 独法化関連の議案は、大阪府では可決されてしまいましたが、大阪市では平成26年12月19日に環科研の廃止等の関連5議案が否決されました。それでも市長は統合独法化を目指すとしています。
「めざす会」は引き続き、地独法化を阻止するために活動を進めます。めざす会に賛同団体・賛同人として加入いただき、ご支援・ご協力をお願いします。

上記資料のPDF版はこちらをダウンロードしてください。
第3分科会−4.公衛研・環科研の統合と独法化の問題点