「基調報告」〜公害環境をめぐる情勢と課題〜

第44回公害環境デー実行委員会

1.はじめに

・昨年は戦後70年で大きな岐路と言われる年でした。「戦争法」ともいわれる「平和安全保障法制関連法」が 9月に成立しました。憲法をないがしろにし、立憲主義・民主主義そのものを根本から破壊するものです。民主主義は、公害をなくし環境保全の運動を進める私たちにとってなくてはならないものです。この法制に危惧する多くの市民共同の運動とともに、私たちの運動も進めていきましょう。

・「大阪都構想」は、昨年 5月の住民投票で一度否決されましたが、昨年末の府知事・市長ダブル選挙で「おおさか維新の会」が勝利し、「再挑戦」を明言しています。この狙いは、「大阪市を解体して、その財政力の一部を大阪府に合体させ大型開発を狙う」流れで、中身はカジノ型開発、高速鉄道とさらにはリニア新幹線、高速道路建設など従来と同じです。「大阪都構想」は府民の生活と環境を破壊するものであり、断固反対します。

・府民の暮らしと健康、環境を守り、住みよい大阪を作るためには、先人の知恵と経験を学び、あるべき大阪の姿をみんなで考え、府民に提案していく必要があるのではないでしょうか。今回の公害環境デー・大阪府民集会はこういう状況の中で開かれます。そこで、今集会では宮本憲一先生に「『都市格』のある住みよい大阪」というテーマで記念講演をしていただきます。日本のことはもちろん、この大阪の過去と現在と未来を語っていただきます。また、公害と環境問題の各分野の課題・運動の報告として、原発避難者の賠償裁判、TPPと食品安全、地震・津波・防災、建設アスベスト判決、国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)、ソラダス 2016などの重要なことも取りあげています。

・大阪府民は、かつて 70年代公害反対運動などの力で革新府政を実現し、老人医療の無料制度や全国一厳しい公害規制、公衆衛生行政の拡充など様々な要求を実現した経験があります。昨年の大阪市「住民投票」では、思想信条の違いを超えた、広範な大阪市民の共同体制・運動を実現することができました。今後この共同の力を強くできれば、大阪をよみがえらせることができるのではないでしょうか。

2.公害被害者の救済をめぐって

2.1.原発事故被害者・避難者救済問題

・東電福島第一原発の3.11事故以来6年目を迎えます。国・行政の原発避難者への生活支援はこれまでも不十分でしたが、住宅支援を切り捨てる方針を出したことは許しがたい動きです。

・福島県内・県外避難者の間で、避難条件の違いを利用した様々な軋轢がひき起こされています。避難者との交流により、連帯した運動を構築し強化していくことが必要です。

・大阪府民も、福井県内の原発再稼働でもし過酷事故が起きれば、近畿 1300万人の水瓶である琵琶湖汚染をはじめ、近藤駿介氏(内閣府原子力委員長)作成の「最悪シナリオ」でいう強制移住の 150km圏におり、放射能被害は甚大なものになることを広く伝えていく必要があります。(原発ゼロに向けた運動については、後の 5.4の項目に記載します)。

2.2.アスベスト被害問題

・関西建設アスベスト訴訟判決が大阪地裁で 1月 22日にでました。この評価については集会の中で担当弁護士から報告を受けますが、国の責任を3度認めたことが重要です。全被害者を救済するために一刻も早く国による救済基金の創設が必要です。

・泉南アスベスト問題では、2014年最高裁判決(原告勝訴)がありました。1972年(特定化学物質障害予防規則が施行された)以後に石綿の仕事を始めた被害者や近隣ばく露・家族ばく露による被害者が救済されていないなどの問題が残されており、被害者を全面救済させる必要があります。

・大阪のすべての地域で、アスベスト被害の実態を明らかにし、アスベスト使用の建築物などでの飛散対策を徹底させていく必要があります。

・さらにEUのようにアスベスト全面除去の期限を決めて実施すべきです。また南海トラフ巨大地震が予知されている中で、被災後の瓦礫に混じるアスベストは除去しておかなければなりません。

2.3.ノーモアミナマタ裁判

・2014年に行われた水俣病一斉大検診で 447人の受診者のうち 97%が水俣病症状と確認されました。公害被害者の救済は、最後の1人まで救済されることが必要です。

・現在、「すべての水俣病被害者の救済」を掲げてノーモアミナマタ近畿第 2次訴訟が提起され、大阪でも大阪地裁に提訴し、すでに第3回口頭弁論が開かれました。近畿(一部愛知県含む)で 100人(認定地域外の方も)が水俣検診を受け、 90%以上の方が水俣病と診断され、昨年12月の第4陣提訴で新たな原告は31名、近畿原告団は合計84名になりました。第4陣は特措法のいわゆる対象地域外が17名です。熊本・鹿児島から転居して、現在は大阪府、兵庫県、奈良県、京都府、和歌山県、愛知県と岐阜県に居住です。

2.4.ぜん息患者等の被害者救済問題

・大阪のように大気汚染のつづく地域のぜん息患者について、 1988年に公害指定地域が解除されて以後、新たな公害患者の認定がなくなりました。「医療費だけでも無料に」が未認定患者の切実な願いです。

・東京都の独自制度による認定患者は、 2015年 3月末で約 96,754人になり、未救済のぜん息患者への医療費助成が重要であることが実証されました(この制度は 2015年 4月、 18歳以上の新規認定を打ち切るなどの改悪がされました)。

・大阪でも、上記東京データやソラダス 2012年健康アンケートなどから推算すると 6万人前後の未救済患者がいると思われます。ぜん息は公害病であることを認めさせ、未救済のぜん息患者への救済制度を創設させる必要があります。

2.5.寝屋川「廃棄プラスチック処理」問題

・2004年、 2度の 8万名反対署名を無視して、北河内 4市リサイクル施設組合と民間廃プラ再生品化工場が操業開始され、排出有害ガスによるシックハウス症候群類似の健康被害が集団発生しました。

・寝屋川市、大阪府、裁判所、公害等調整委員会は住民の訴えに耳を傾けませんでしたが、昨年 4月誕生した寝屋川新市長は、 4市施設組合の廃止、廃プラ焼却・ごみ発電(サーマルリサイクル)の方針を提案し、「守る会」はこれを支持し、実現させるため頑張っています。また健康被害の住民を対象に毎月、小松病院にて真鍋医師による廃プラ外来の診察が行われています。なお、廃プラ最終処分による環境汚染の解決にはプラスチック量を減らすことが重要です。

2.6.その他

・泉大津なぎさ府営住宅団地での阪神湾岸線による騒音問題、河南町での山地開発での土砂運搬時の粉塵問題など、まだまだ地域の公害問題が出ています。

・企業の製品による健康被害についても、化粧品による皮膚障害、ワクチン接種による被害なども大きな問題です。

3.大阪の公害環境・公衆衛生行政

3.1.NO 2やPM2.5などの大気汚染対策

・大阪の大気汚染をめぐる状況は、 1971年誕生の革新府政による種々の対策もあり、改善しつつあります。しかし、ディーゼル排ガスなど移動発生源を主要因とする NOx、PM2.5などが依然として問題です。

・行政は NO2の環境基準 0.04ppm〜0.06ppmというゾーン規定により、 0.06ppmを下回れば“環境基準を達成”と言っていますが、このレベルは健康を損なう汚染濃度です。環境基準(地方自治体においては環境保全目標)は厳しく運用されるべきです。

・PM2.5(微小粒子状物質)については、 SPM(浮遊粒子状物質)より細かく肺の深部まで到達し、WHOにより肺がんの原因物質としても認定されました。大阪の多くのところで環境基準の年平均値15μg/m3が守られていません (2014年度では自排局15局の内13局が未達。一般局は32局の内17局が未達。大阪市内でみると自排局、一般局併せて全測定局13局で未達です )。分析体制もまだまだ不十分であり、分析体制強化と同時に抜本的に対策を講じるべきです。

・大気汚染とぜん息などの因果関係を明らかにするために、行政として学校や医療機関の協力を得て疫学調査を実施すること。 3歳児検診で掌握した小児や、小児ぜん息医療費助成を受けた生徒の 15歳以後の追跡調査を行うことが必要です。昨年末に環境省が「環境保健サーベイランス調査」のデータ処理に誤りが見つかり、大気汚染とぜん息発症に「関連性なし」を「関連性あり」に訂正しましたが、これを行政に反映させることが必要です。

・ディーゼル車の排ガス規制を引き続き強化するとともに、ホットスポットと言われる局地対策を徹底するとともに、大気汚染のない、公共交通機関を中心に据えたエコ型交通体系(都市部では自転車の利用を含める)の方向を明確にすることが必要です。

3.2.公衛研と環科研の統廃合・独立行政法人化の問題

・大阪市の環境科学研究所(環科研)は大阪市域を対象にした公衆衛生と環境保全業務を担当にし、大阪府の公衆衛生研究所(公衛研)は政令市と中核市とを除く大阪府域の公衆衛生を主に担当するとともに、中核市では対応できない検査依頼も受けています。公衆衛生や環境保全は知事、政令市と中核市の市長のそれぞれの責務です。府と市町村では重複しない責務や、地域特有の問題を抱えています。役割の違いを無視して統合することは暴論です。

・さらに、公衆衛生部門の研究所は、公衆衛生の行政機関でもあります。独立行政法人化は、府と市が直接する必要のない仕事と決めつけ、運営交付金削減という形で、健康危機管理対応能力の低下を招きます。統合・独立行政法人化を撤回し、公立運営で機能強化と拡充をするべきです。

3.3.「食」の安全や保健所、水道事業、ゴミ処理問題など

・外食産業の食品異物混入や偽装表示など食の安全は依然として油断できない状況です。国と地方自治体が民間委託化や検疫体制の弱体化をすすめてきたことも背景にあります。こういう中でさらに昨年4月より食品の一部を「機能性食品」などと表示できるようにしましたが、消費者を一層混乱させ「食品の安全性」確保が危うくなるだけではないでしょうか。

・TPPの強引な合意は、農業、食品規制、医療、雇用など多方面に影響し、生活の安全と経済を危機に陥れる可能性が大です。

・保健所は、かつては大阪市各区に 1カ所ありましたが、今では全市で 1カ所に縮小されました。新たな感染症、ぜん息患者増加、アスベスト被害増加などを考え、住民の安全・健康をバックアップするために保健所の役割を見直し強化し、食品監視員も大幅に増強すべきです。

・大阪では水道事業の民営化が進められようとし、いくつかの自治体ではゴミ処理事業民営化、有料化が進められています。水道事業は公衆衛生の面から重要な事業であり、災害時には交通機関とともに重要な役割があります。ゴミ処理は無料を原則にすべきです。貴重なエネルギー資源、再生可能エネルギー資源として積極的に活用する方途を行政として追求すべきものです。

3.4.道路問題

・「淀川左岸線」では、堤防破損の危険性がある「二期事業」、上町断層を真横に通る大深度トンネルという危険性のある「延伸部」などが急速に進められ、住民側は十分な環境対策、安全対策できるかと疑問を提示しています。

・「新名神高速道路」(八幡〜箕面)は、 2012年凍結が解除され、事業化が進められています。

・これらの道路建設を止めるまでには至っていませんが、粘り強い住民運動で、左岸線一期事業では道路フタ懸けや脱硝装置設置を実現させました。「中津リバーサイドコーポ環境守る会」では大阪市の「技術検討委員会」議事録を全面公開させ、貴重な技術情報を入手するなどの成果も出ています。

・これらの道路については、南海トラフ巨大地震等で発生する津波・液状化現象等により、堤防崩壊の危険性があり、その対策をすべきです。また、採算性も必要性も低い高速道路の建設を中止し、老朽化対策や生活道路の点検・補修に予算を回すようにすべき。

4.地震・津波など防災問題

4.1.南海トラフ巨大地震などへの対策

・南海トラフ巨大地震は、仮に発生すれば、大阪においても何も対策をしなければ死者 13万 4000人の被害が想定されています。M7−8クラスの南海トラフ地震は 30年以内の発生確率が 70%といわれ、大阪の各自治体は、これら大地震や上町断層帯直下型地震への対策について明確にすること。特に大阪湾隣接地域では、港・湾岸部の船・コンテナ・石油タンク対策、地盤の液状化、超高層ビル、巨大地下街の水害予防、木造密集住宅対策、アスベスト除去対策等を明確にすべきです。

4.2.異常気象による集中豪雨や巨大台風対策

・集中豪雨、ゲリラ豪雨、巨大台風、竜巻などの異常気象が頻繁に発生し、鬼怒川堤防崩壊など各地に甚大な被害を発生させています。気候変動・温暖化によって日本が亜熱帯化してきているといわれます。

・大阪では、局地的集中豪雨、神崎川、淀川、寝屋川、大和川などの河川対策を徹底すること。

・堤防の下にトンネルを造って高速道路を通す淀川左岸線・同延伸計画は、地震・津波、大洪水対策など防災の面から徹底して見直すこと。

4.3.防災・避難計画問題

・異常気象・地震・津波などの災害や原発事故などへの備えとして、各自治体の総合的な避難計画が重要です。?古い水道管・ガス管などインフラの耐震化・整備・更新すること、?各種の防災・避難計画を住民にわかりやすくし、丁寧な説明と日常不断の訓練を実施すること。特に大阪地下鉄での避難方法・対策を講じること、?災害発生時に対応出来る専門職を各自治体に配置すること。

5.気候変動・温暖化の防止、自然エネルギーの推進について

5.1.COP21の評価と今後の課題

・人類の生存が脅かされると予測される「産業革命前より平均気温上昇 2℃以下」にするために、昨年12月のCOP21の国際的な会合で、画期的な合意ができました。不十分な点はありますが、先進国、途上国含めて文書が合意されたことは一歩前進です。

・しかし日本政府は削減目標について、「13年比26%削減(90比13%削減)」という低い目標で、世界の足を引っ張りました。 2009年に国連で公約した「 2025年までに 1990年比で 25%、2050年までに 80%削減」の目標に取り組むべきです。

5.2.温暖化対策の推進

・大阪の CO2排出量は、 2015年 8月発表で 2013年度 5,572万トン( 1990年度比 5.2%増加、前年度と比べ 0.2%減少)。排出量の 74%は産業部門、運輸部門、民生 (業務 )部門です。

・CO2大量排出企業に削減を徹底させ、省エネ・低エネルギー社会の府民運動を強力にすすめるべきです。既存の石炭・重油火力発電所などは廃止すべきです。

・石炭火力発電はガス火力発電の2倍以上の CO2を排出します。全国で40数基、関西では兵庫県で 3か所、特に神戸製鋼所の2基130万KW発電所が増設されることは、看過できません。 CO2を大量に発生させ、水銀など有害化合物を含む排気ガスを都市の真ん中で排出し、風下側の西淀川など多くのぜん息患者がいる大阪にも流れ込むといわれています。先進国の動きに逆行している、このような石炭火力発電の新規建設に反対します。また、石炭火力発電の輸出も中止すべきです。

5.3.太陽光発電・風力発電などの再生エネルギーの推進

・原子力発電と石炭火力発電などをベースロード電源とするエネルギーミックスの方針は、すぐに撤廃し、太陽光発電・風力発電・バイオエネルギーなどの再生エネルギーの開発・推進こそ力を入れるべきです。また、その受け入れ・接続を拒むことは問題です。

・この4月から電力自由化が開始されますが、そのエネルギー構成の開示義務がなく、消費者・市民に明瞭に再生エネルギー源の比率情報を積極的に開示させる必要があります。

5.4.最大の環境破壊、最悪の公害である、原発事故を再び起こさないために

・昨年、川内原発が再稼働され、一昨日関電高浜 3号機が再稼働されました。さらに四国電力伊方、関西電力大飯他、多くの原発が再稼働へ強行されようとしています。東電福島原発の事故原因も解明されず、ベント不備や避難計画不十分なままでの再稼働は止めさせる必要があります。福島第1原発のような過酷事故は、この日本で二度と発生させてはなりません。

・また、核拡散・核兵器につながる恐れのあるインドなどへの原発輸出はもちろん、外国への原発輸出は絶対に認めることはできません。

・さらにすでに一兆円を超える費用をつぎ込みながら展望の見えない高速増殖炉「もんじゅ」にこだわっていることも中止すべきです

・原発の放射性廃棄物 (=核のゴミ )は処理方法がなく、何万年も管理が必要で、後世への“負の遺産”です。核兵器の原材料に転用できるプルトニウムも生成します。地震国・火山国の日本、さらに被爆国である日本での原発は廃炉・撤去が必要です。

・大阪の各自治体も原発の再稼働に反対すべきです。特に大阪市は筆頭株主として、関西電力に原発再稼働の中止を本腰入れて求めるべきです。

おわりに

 冒頭でも述べたように、昨年は「戦後 70年」の節目の年に当たり、戦争は人の命を大量に奪うとともに“最大の環境破壊”となるものであり、二度と起こしてはならないことです。安保法制を廃棄させるとともに、原発の再稼働をゆるさないことが必要です。どの世論調査をみても国民の願いは安倍政権の進む道とは全く逆です。粘り強く住民運動、府民運動を大きく発展させましょう。

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「基調報告」〜公害環境をめぐる情勢と課題〜