第3分科会レポート2

どうなっている大阪の石油コンビナート対策
南海トラフ巨大地震・津波を前に 

中村毅(大阪から公害をなくす会)

<はじめに>

*火の手 海と陸から〜炎に包まれる街(気仙沼・鹿折地区)<河北新報2011.5.15>

*東日本大震災では、宮城県や千葉県などのコンビナートにおいて、地震や津波により危険物タンクの流出や高圧ガスタンクの爆発など、周辺住民の避難を伴う大きな被害が発生している。

*地震とともに押し寄せる津波。石油やガスなどのタンク、危険物や毒劇物が集積するコンビナート、制御不能になれば住宅を破壊し、大火の原因ともなる船舶やコンテナへの対策は、東日本大震災での気仙沼市を想起するまでもなく、地震・津波対策として大事な要素である。

(1)大阪の石油コンビナート対策〜「大阪府石油コンビナート防災計画(2014年3月)」より

1)石油コンビナート災害の例(消防庁資料より)

?スロッシングによる浮き屋根上に油が漏洩する。(スロッシング=地震の揺れに共振して、タンク内の液体が大きく揺れる現象)

?配管の折れ曲がりによる危険物の漏洩

?護岸・桟橋・防油堤の損傷

?津波によるタンクの移動・倒壊

?タンク支柱の座屈による配管の破損(柱などで、縦方向に圧力を加えた時、圧力がある限界値に達すると急に横方向に湾曲が起こる現象)

?液状化による防油堤の沈下・傾斜

?バースや護岸の被害

2)大阪府の検討体制

*地震・津波時の被害想定と防災対策を検討するため、2012年8月に大阪府石油コンビナート等防災本部に「地震・津波被害想定等検討部会」が設置された。部会長=室崎益輝・神戸大名誉教授、部会員は関西大学の越山健治准教授など5人。

*具体的には、大阪湾沿いに4つの特別防災区域を設定して検討し、対応策を提示している。

3)4つの特別防災区域の概要 

?大阪北港地区
・大阪市此花区の西部に位置し、大阪港、淀川、正連寺川および安治川に面し、面積は約360万?(参考:大阪城公園=105.56万?)
・事業所の主な業種は石油貯蔵をはじめ有機化学工業製品の製造、製鋼、金属製品製造等。石油化学や石油精製等の大規模な事業所は存在しない。 

?堺泉北臨海地区
・堺市、高石市および泉大津市の臨海部に位置する堺泉北臨海工業地帯の大部分を占める地域で、大阪湾および大和川に面し、面積は約1,801万?(大阪城公園の17倍の広さ。1957〜66年に堺市沿岸、1961〜72年に高石市・泉大津市沿岸の造成)
・主な業種は石油精製、石油化学、石油貯蔵、製鋼、ガス、電気事業等の重化学工業。これらの事業所が石油コンビナート地帯を形成し、多量の石油、高圧ガスを貯蔵し、取り扱い処理している。
・区域内には不特定多数の者が利用するアミューズメント施設等が立地している。地区と隣接市街地との間には、造成当初から公園、道路、水路等の遮断帯が設けられている。 

?関西国際空港地区
・泉佐野市、田尻町および泉南市の沖約5?の海上埋め立て立地で、面積は約1,035万?
・貯蔵、取り扱っている石油類は主として航空機用および発電機補助ボイラー用の燃料。 

?岬地区
・岬町の臨海部に位置し、面積は約56万?。
・業種は電気業であり、発電用燃料の石油類貯蔵施設が存在する。
・地区と民家の境界付近には低い丘陵地帯と事務管理施設が遮断帯として配置されている。

?事業所数や石油・ガス貯蔵量 

  大阪北港地区 堺泉北臨海地区 関空地区 岬地区
大阪市消防局 堺市消防局 泉大津市消 泉州広域消防本部
特定事業所数 14  29 5 1
石油貯蔵量(kl)  279,204 6,429,387 14,865 198,426 221,046
高圧ガス処理量(千N.)  461 1,300,551 4 0

  特定事業所=石油コンビナート等災害防止法(石災法)第2条第4号及び第5号に定める第1種事業所及び第2種事業所をいう。

4)南海トラフ地震に係る津波災害想定

?大阪北港地区
・津波到達までの時間は120分。津波浸水深は最大5m。
・危険物タンクの大半が津波により移動し、油類が最大2.7万kl流出する恐れ。(2.7万klとは25mプール=25m×16m×1.5mで換算すると約45杯分)
・油類が海水とともに拡大・着火した場合、一般地域への影響がある陸上・海上火災等の災害発生の可能性
・短周期地震動により危険物タンクの流出火災、毒劇物タンクからの毒性ガス拡散の可能性 

?堺泉北臨海地区
・津波到達までの時間は100分。津波浸水深は最大2m。
・長周期地震動により大型の危険物タンクで、スロッシング(油面揺動)により油類が最大1.2万kl流出する恐れ。(25mプールで約20杯分)
・津波により小型の危険物タンクが移動し、油類が最大0.5万kl流出する恐れ。
・短周期地震動により高圧ガスタンクや桟橋等で火災・爆発・毒性拡散、毒劇物液体タンクで毒性ガス拡散の恐れあり。爆発等の影響が一般地域にも及ぶ可能性。
・短周期地震動により危険物タンク等で流出火災の可能性。 

?関西国際空港地区
・津波の高さは0.01〜1m
・短周期地震動により危険物タンク、石油タンカー桟橋、危険物配管設備で流出火災の可能性 

?岬地区
・津波の高さは0.01〜0.3m
・短周期地震動により危険物タンク、石油タンカー桟橋で流出火災の可能性

5)石油コンビナート防災計画 

?基本目標
・従業員を含めて人命を損なわない、安全を確保することが原則。
・一般地域への影響の最小化を図る
・我が国の社会経済活動を機能不全に陥らせないよう、燃料やエネルギー等の供給能力を最低限確保するとともに、早期の復旧・復興に貢献する。

?津波からの防護および円滑な避難の確保
・港湾および護岸の管理者は、地震が発生した場合は直ちに、水門、防潮鉄扉等の閉鎖、工事中の場合は工事の中断等の措置を講じる。また、内水排除施設等は、施設の管理上必要な操作を行うための非常用発電装置の整備、点検その他所要の被災防止措置を講じておく。
・防災関係機関、特定事業所およびその他の事業所は、津波に関する情報を確実に伝達する。
・各地区内の特定事業所及びその他の事業所は、人的被害の軽減を図るため「大阪府石油コンビナート等特別防災区域 津波避難計画」を基本方針にして、あらかじめ従業員等の避難場所を定めるとともに、津波発生時には作成した計画に従って迅速に避難する。

?地震・津波発生時の応急対応
・(各事業所は)地震・津波発生時に生じる可能性のある火災、爆発、石油等の漏洩若しくは流出等の災害の発生を防止するため、危険物施設等の緊急停止及び点検、充填作業、移し替え作業等の停止、その他施設の損壊防止のため特に必要がある応急的保安措置を行う。津波が襲来するまでの時間を考慮した危険物施設等への浸水防止、流木等による危険物施設等への影響の回避などを行う。また、大型タンカー等船舶による危険物等の荷役作業中の場合は、直ちに中止し、港外へ避難、係留索の点検等、災害の発生を防止するための措置を講じる。
・災害の状況に応じ、職員等により直接周辺住民等に対する広報活動を行う。
・事業所は、従業員等を安全な避難場所に誘導する。 

(2)船舶運航事業者における津波避難マニュアル作成の手引き(国土交通省海事局2014年3月)

1)地震・津波情報の収集 

*気象庁発表の地震・津波情報を収集する。
発生から10数秒後に「緊急地震速報」、約1分半後に「地震速報」、約3分後に「津波警報・注意報」が発表され、各気象台から行政機関や報道機関等に連絡されることになっている。 

*津波警報・注意報の種類 
・大津波警報…予想される津波の高さが高いところで3mを超える場合 
・津波警報……1m〜3m以下の場合、津波注意報…0.2m〜1m以下の場合

2)津波襲来時の船舶の対応 

?使用可能な通信機器を使っての情報収集と本社等との連絡・協議
?乗組員の確保(平時から最低限必要な乗組員を確保するためのルールや上陸する乗組員に対する職務代理について取り決め)
?荷役の中止
?操船支援確保の可否(水先人やタグボートが確保できない場合の方法と体制)
?係留強化の場合は、津波が係留中の船にどのような影響を与えるかの事前検討。

3)津波対応行動 

?港外退避 
?係留強化 
?総員退避 

(3)大阪湾地震・津波アクションプラン(2008年4月)

1)アクションプランの体系

?計画期間…2008年から2017年の10年間。短期的な目標は2012年度末、中期的な目標は2014年度末、長期的な目標は2017年度末までにと設定している。

?基本理念…東南海・南海地震津波に対する大阪湾の協働体制を構築し、自助・共助・公助により安全で災害に強い港づくりを目指す。

?減災目標…津波発生時の人的被害ゼロ、船舶・貨物等の物的被害の最小化、港湾機能の早期復旧を今後10年間の目標にしている。 

?施策の方向性 
1.津波に強い港湾施設をつくる
2.津波災害に強い人・組織をつくる
3.避難・救助を支援する。4.情報の共有化をはかる。
5.被災した港湾を早期に復旧する。6.災害支援拠点機能を発揮する

2)津波に強い港湾施設をつくるとは(15項目) 

?水門・防潮扉・防潮堤対策 
*防潮扉の電動化、防潮堤耐震化の推進
*防潮扉閉鎖不可時の応急対策の確保(内容は、「防潮扉が万一閉鎖できない場合の応急対応について検討を行い、対策を実施する」にとどまっている)
*水門・防潮扉・防潮堤の定期点検と補修の継続・充実

?倉庫・上屋など堤内地施設の浸水対策 

?小型船舶等の保管場所の確保と係留索の強化

?流出被害対策
*コンテナ流出防止対策の実施(コンテナの多段積み、漂流防止ネットの設置、設置高確保用の土台配備等、コンテナ流出を防止するための検討と実施。車は15分、コンテナは24時間で沈下する)
*岸壁・物揚場の定期点検の充実と補修の継続・充実

?物流機能の確保
*耐震強化岸壁の整備(災害時にも使用可能となる耐震強化岸壁の整備)
*荷役機械の浸水対策の実施

3)津波災害に強い人・組織をつくるとは(35項目)

?防潮扉・水門・防潮堤対策
*防潮扉・水門・防潮堤や防波堤の定期点検。
*官民合同による防潮扉の閉鎖訓練。施設管理者による参集訓練。
*施設管理者間による防潮設備の共同モニタリング
*防潮扉閉鎖の支障となる放置自動車や物品の監視と指導。災害時には民間企業と連携して放置自動車や物品の移動を行う。
*防潮扉の閉鎖体制を充実するための地元住民との協力。地区出動隊による防潮扉閉鎖体制の維持(=防潮扉閉鎖体制の中核である地区出動隊の防災機能を確保するための検討) 

?防潮扉閉鎖不可時への対応
*応急対応の確保(内容は「防潮扉が万一閉鎖できない場合の応急対応について検討を行い、対策を実施する(簡易防潮設備や土嚢等の防潮扉周辺配備など)」)
*情報伝達体制の構築 

?人の避難体制の確保
*港湾事業者の自主防災組織に向けた啓発。自主防災組織の充実。
*港湾労働者等の避難のための防災意識・知識の向上に向けた普及・啓発
*官民合同による避難訓練の実施。
*関係機関による避難広報、海上からの避難広報、港湾事業者への津波情報連絡体制の確保。 

?物流機能の確保
*岸壁、物揚場の定期点検
*放置艇、沈船の監視と撤去。小型船舶への啓発。放置自動車や物品の監視。

?防災意識の啓発 
 *施設の浸水被害や物品の流出低減のための防災意識・知識の向上に向けた普及・啓発
 *臨海部の防災マップの作成・配布

?緊急時における情報伝達手段の確保、港湾事業者やライフライン事業者への連絡体制の確保

?防潮機能の復旧 
*防潮堤応急復旧対策の実施体制の確保
*被災状況の調査。散乱物品の撤去・回収作業に関する実施体制・マニュアルの整備。
*官民連携による漂流物の回収。航路浚渫の実施体制の確保
*官民連携による岸壁・物揚場・護岸・防潮堤等の復旧工事の実施体制の確保 

(4)まとめ

?石油コンビナート対策、船舶・コンテナ対策、防潮堤や護岸対策としては、一部、羅列的で細分化し過ぎと感じるところもあるが、これらの計画・指針・方針などに基づいて地震・津波対策を大いに進めるべきである。但し、その多くが「検討を行い、対策を立てる」といったもので、進捗状況がはっきりしない。計画にとどまっている可能性もある。早急に点検し、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Act)のサイクルを通じて現実のものにする必要がある。

?石油コンビナートや港湾対策の場合、当然“官民一体”の対策や訓練は必要であるが、地震・津波に対する防災対策は、行政(官)が責任を持って進めるべき性格のものである。地震・津波・防災についての専門家の養成と職員・スタッフの配置は行政の任務であるし、また、防災方針・防災計画に従わない事業者を指導し、実行させるのも行政の責任である。

?ここで取り上げたのが石油コンビナートや港湾、船舶などについての防災計画、アクションプランのためか、大阪府や大阪市の地震・津波対策の全体像が見えない。まるで防潮扉や防潮堤・防波堤の耐震強化をすれば津波対策は十分で、一般市街地・市民には被害が及ばないかのような印象を受ける。これらの施策を行ってもなおかつ防潮堤や堤防はどこかで決壊し、大阪でもっと大規模な津波災害が起こりうる。地震・津波対策の全体像との繋がりを明確にすべきである。

?津波対策として住民にとって先ず大事なことは“何をおいても高台に逃げること”であり、「避難計画」とそのための日頃の学習と訓練が大事である。防潮扉の傍に自動車を放置するのは何故いけないことなのかなどの防災教育を徹底することも重要である。アクションプランの「津波災害に強い人・組織をつくる」の内容は、地震・津波・防災の“人づくり”とは言い難い。

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第3分科会レポート2 どうなっている大阪の石油コンビナート対策 南海トラフ巨大地震・津波を前に