大気汚染状況に対する私たちの見解

2009年6月11日
 大阪から公害をなくす会

日経新聞(2009年6月6日夕刊)一面トップで、「大気環境基準、大阪府、全域でクリア」という大きな見出しで、2008年度、大阪府が環境基準達成と報道された。大阪府環境管理室内藤昇室長の自讃的苦労話やそれを多とするかのような環境省自動車環境対策室のコメントも掲載されているので、この記事の主旨は行政によっても承知されているものと思われる。

しかし記事を読んでみると、大阪府の全測定局で二酸化窒素NO2日平均値の98%値が0.06ppm以下、浮遊粒子状物質SPM値の2%除外値が日平均値0.1mg/m3以下となる見通しになったというのが、その具体的内容である。かかる測定結果をもって、あたかも大阪の大気汚染が解消したかのように読み取れる上記見出しのような評価を行うのは妥当ではないし、大気汚染による健康被害で苦しんでいる住民からみれば許しがたい評価と指摘されよう。

第1に、NO2環境基準は下記囲みのようにゾーンで設定されており、その上限値以下になっただけで環境基準達成というのは行政の勝手な判断であり、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する」(環境基本法16条)という環境基準の設置目的に照らしても許されない。

第2に、現行NO2環境基準は、もともと中央公害対策審議会専門委員会による指針値、年平均値0.02〜0.03ppmに基づいて設定された値であるが、その後30年以上も見直されないままになっている。そしてこの間実施された環境庁(当時)の健康影響調査などによってもこの指針値を超えると健康影響が現れる結果となっている。したがって住民の健康保護という視点に立てばNO2年平均値にも注意が払われるべきであるが、大阪府内測定局の年平均値をみると、たとえば2008年度自排38局中12局で、指針値上限0.03ppmを超えている。

第3に、測定局の測定値が0.06ppm以下になったことをもって大阪全域がそうなったかのように評価するのは正確さの点でも妥当性を欠く。たとえば港区国道43号線の沿道地域では、依然深刻極まる汚染に苦しめられている所があるが、汚染の常時測定は行われていない。

第4に、SPM環境基準は下記囲みにみるように1973年に設定されたままであるが、この間調査研究が進み、粒子状物質の健康影響、とりわけデイーゼル排気微粒子など粒径10μmよりも微小な粒子状物質の危険性が明らかになってきている。これを受けて、粒径10μm以下の粒子に対する基準と別に、新たに微小粒状物質PM2.5に対して、世界保健機関WHOでは指針値を、米国やEUでは環境基準を設定しており、日本でもPM2.5の環境基準を設定すべく中央環境審議会で大詰めの論議が進められている。大阪府内でもこの数年いくつかの測定局でPM2.5の測定が行われているが、その測定値はすべてWHO指針値や米国の環境基準を大きく超えている。このように粒子状物質の汚染は健康上憂慮される状況にあり、長年放置のSPM基準で評価するのは危険なのである。

第5に、大阪では、いまもなお呼吸器系疾患などの健康被害が持続し、広がりつつあって、多くの府民を苦しめている。大気汚染公害病患者についていえば、1988年大気汚染公害病の認定が行われなくなって20年が経つが、大阪では当時認定されていた患者で、今になっても健康が戻らず、ぜん息などの病気で苦しんでいる患者が13000人以上もいる。学校保健統計にみられる児童の健康状況についてみれば、ぜん息の被串率はこの30年、全国的に幼小中高児童いずれも増加の一途をたどっているが、大阪では全国よりもずっと高率でなお増加している。大気環境基準達成という行政の判断は、かかる現実とは相容れず、府民の健康をまもるという視点に立てば、危険かつ全く不当な評価と断ぜざるを得ない。

以上述べたことから指摘されるように、大阪の大気汚染はまだまだ安心できるようなレベルにはなく、逆に健康影響の広がりが心配される状況にあるといわねばならない。大阪ばかりでなく、首都圏など他地域でも大気汚染に関わる健康被害で苦しんでいる人は少なくない。このような被害を受けている人々にとっては、大気汚染の改善はもとより、医療や生活補償など被害に対する施策を求める要求が、とりわけ切実であって、現在大阪も含めて全国規模で、新たに大気汚染公害被害者救済制度を求める運動が起こっている。

NO2環境基準(1978・7・11告示)

1時間値の日平均値0.04〜0.06ppmのゾーン内またはそれ以下
◇0.06ppmを超える地域は7年以内に0.06ppm達成に努める
◇ゾーン内、または0.04ppm以下の地域は原則として現状程度の水準維持又は大きく上まわらない

SPM環境基準(1973. 5.8告示)

1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下であり、かつ、1時間値が0.20mg/m3以下であること
(注)SPM ;大気中に浮遊する粒子状物質でその粒径が 10μm以下のもの

最近ようやくNO2や粒子状物質の汚染濃度に減少傾向が見られ始めたことは歓迎されるが、それをもって汚染解消と判断するのは危険である。大阪府や環境省は、行政主導の判断ではなく、真に住民の健康を守るという責務を堅持し、一層の環境改善の努力を続けられるとともに、現に健康被害を受けている人々への、被害救済にも誠実に取り組まれるよう、強く要望する次第である。

以上