2011年 3月14日

大阪府議会各会派 御中
環境農林水道常任委員 各位

大阪から公害をなくす会

環境農林水産総合研究所の独立行政法人化に反対です
大阪府議会での徹底審議を望みます

大阪府の橋下知事のもとで、府立環境農林水産総合研究所(以下、「総合研究所」と略す)を独立行政法人化する案が提起され、府議会での審議がすすめられています。私たち大阪から公害をなくす会は、総合研究所はその果たしている公的使命、果たすべき公的役割からして大阪府の重要な機関として維持・発展させるべきであり、独立行政法人化には強く反対しています。
大阪府議会に対し以下の点で徹底的な審議と慎重な対応を強く望むものです。

(1)総合研究所は公的使命を果たす府民の財産

大阪府の環境農林水産総合研究所は、2007年に環境情報センター(旧公害監視センター:大阪市東成区)、食とみどりの総合技術センター(旧農林技術センター:羽曳野市)、水産試験場’(岬町)の三つを統合して創られたものです。総合研究所の環境情報部では大気や水質の常時監視および調査研究を行い、府下約100カ所の大気汚染常時監視網の中央局機能やダイオキシンなど有害物質の測定分析機能などを果たし、大阪府の環境行政の基盤となるデータを作成し、複雑化する府域の環境問題の解析を行ってきました。また、環境研究部門では自然環境の保全、緑化、農林業におけるバイオマスの再生利用に関する試験研究および調査分析を行い、食の安全研究部門では農作物の高品質化、食品の品質評価、病害虫総合防除、栽培技術の高度化に関する試験研究および調査分析、水産研究部では水域環境の保全および改善、水産資源の管理および増殖、希少生物の保全、魚介類の疾病に関する試験研究および調査分析などを行ってきています。

大阪府民の健康を守るために環境を監視・保全する、農林水産業を守り発展させるためにの調査、研究、技術相談を行う、さらには環境や食品の分野などでの危機管理を必要とする事象に機敏に対応するなどして、府民にとって重要な公的使命を果たしてきています。こうした役割は、昨今の環境や食品、農林水産業をめぐる情勢を考える時ますます重要になっており、大阪府の重要な機関として維持・発展すべきものと私たちは考えます。

(2)独立行政法人化は本当に必要?

ところが大阪府は、総合研究所が果たしている公的使命を認めながらも、次のような理由を挙げて独立行政法人化が必要だとしています。すなわち第一は「財政再建プログラム案により平成14年度から23年度まで毎年3%ずつの人員削減」となっていること、第二は「(研究員の)確保についても庁内調整に多くの手続きを必要とする」ため「迅速かつ柔軟な対応」が出来ないことの2点です(環境農林水産部の『独立行政法人化について』H22.11より。以下11月文書)。

ここで挙げている理由は、私たち府民にとっては全く理解できないことです。何故なら、例えば国の制度、やり方が変わったという外的要因があって、それに対応するために変更するということなら検討の余地はありますが、ここで挙げられている理由は全て大阪府の内部問題であり、大阪府の内部で処理・改善すれば済むものばかりです。総合研究所の役割の重要性に鑑み人員削減は行わない、人事を迅速かつ柔軟に対応するために庁内手続きを簡略化し、改善するなどすれば済み、解決する問題です。

また、11月文書は、独立行政法人化によって総合研究所は「きめ細かに府民ニーズを把握し、新たな研究分野への展開を図る」とともに「持っている資源を有効に活用し、迅速かつ的確に成果を府民に還元する運営を実現する」と述べています。これらも独立行政法人化しなくても、今の総合研究所の内部努力で出来る問題であり、また大いにすべき課題です。

こんな理由が、大阪府民の将来に取って重大な影響を与える総合研究所の独立行政法人化の論理として成り立つのでしょうか。そもそもこうした要求が総合研究所の現場の研究者から上がってきているのでしょうか。徹底した審議を望む第一の理由です。

(3)独立行政法人化で描かれるメリットは本当?

第二の理由は、総合研究所を独立行政法人化した場合、まともな調査や研究活動、危機対応などができるのかと言う問題です。環境農林水産部の11月文書では、独立行政法人化は「研究所を行政の制約から解放し、自らの責任と権限により、予算や人事制度などを弾力的に運用することが可能」となり、また、独立行政法人の運営に要する経費は「運営費交付金」として府から交付され、それ以上に「法人の経営努力によって生じたと認められる経費(捻出資金)については研究力の向上などに活用」できるなど、バラ色の絵を描いています。

しかし、11月文書と本年2月に発行された『法人の今後の事業展開』(以下2月文書)を詳しく見ると、以下のような点が指摘されます。

第1は、運営交付金(人件費)は府から交付し、剰余が出れば捻出資金として自由に活用しても良いとされていますが、府が運営交付金を定額で出すのは第1期中期計画期間中(平成26年)までのことで、それ以後は減額されるものです。そうなると法人運営の大きな部分を「外部資金(競争的研究資金)」すなわち「受託収入」に頼らざるを得なくなります。

第2は、捻出資金を生み出すやり方として、事務・技術・現業などの人件費を大幅に削減する方法が用いられていますが、このようなやり方をすれば結局は、今まで事務や技術、現業がやっていた業務を研究者がやらざるを得なくなります。研究者が伝票書きや書類作成に忙殺される事態になりかねません。

第3は、捻出した資金を活用すれば「任期付研究員」を雇用することも可能となるなどと書いていますが、“派遣労働者”のように身分が不安定な任期付研究員では腰を据えた調査・研究、ひいては技術の蓄積も不可能になります。調査・研究は地道で長く、一見ムダに見えるような活動も求められます。安定した身分保障はその前提です。

第4は、6名の法人役員を設置し、ここに人と金、事業の決裁権を集中する機構が提案されていますが、理事長と2名の監事は知事が任命し、知事に任命された理事長が副理事長と2名の理事を指名する仕組みになっています。これでは知事の思うままの人事配置、トップダウン研究所になってしまいます。研究所にとって一番重要な“研究者自治”の発想は全く欠落しています。

第5は、職員の志気を高めるためのインセンティブとして、「一定額を理事長特別枠予算として活用し、優秀な研究テーマに研究資金を配分する」「外部資金獲得増に合わせて研究員の研究予算を増加」などが検討されていますが、正に“金で意欲をかきたてる”メニューのオンパレードです。非公務員であっても、公務員の志気を高めるやり方として大いに疑問です。

(4)これでは「公的使命」を果たせなくなる

環境農林水産部の11月文書は、「地方独立行政法人大阪府環境農林水産総合研究所は、これまでと同様に公的使命を果たす」と書いていますが、独立行政法人は総合研究所の「公的使命」を著しく阻害する危険性が高いと言わざるを得ません。

何故なら、第1に初めのうちこそ運営費交付金が府から交付されますが、時期が来ればそれも減額され、最終的には「民間企業からの受託研究等の拡充により独自収入の増加」でまかなわざるを得なくなるからです。その結果は、府民にとっては役に立っても儲けにならないような調査・研究は不採算部門として切り捨てられ、短期間に収益が上がりそうな民間企業からの調査・研究が優先されるからです。

第2は、人的体制が大幅に変更され、公的使命を果たせるような体制でなくなってしまうからです。事務・技術・現業などの職員を大幅にカットし、そうした業務を研究員にやらせる。足りなくなるところを任期付研究員(派遣研究員)でカバーするなどという構想は、専門的な技能の蓄積が求められる公的な調査・研究機関として体制をガタガタにしてしまうものです。総合研究所は決して研究者だけで成り立つものでないことを知るべきです。

終わりに

以上で見てきたように、総合研究所の独立行政法人化構想には重大な問題点が数多く含まれています。独立行政法人になれば研究所にとっても、府民にとっても様々なメリットがあるかのように書かれていますが、私たちは総合研究所の行っている府民のための調査・研究というサービスが切り捨てられるという危惧、そして、本当のネライは総合研究所にかかっている経費(人件費)の削減ではないかという疑念を抱いています。徹底審議と慎重な対応を要請します。

以上