COP21・パリ協定と今後の課題

2016年1月25日
大阪から公害をなくす会
地球環境委員会

 世界で気温上昇がこのまま進めば、気候や自然環境が大きく変動し、人の住めない地球、社会生活・経済活動も成り立たない地球になりかねない事態にあり、気候変動・地球温暖化の防止、その要となる温室効果ガス・CO2の削減は、人類の生存・存続にとって待ったなしの課題となっています。そうした中、昨年末フランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)は、12月12日、2020年以降の地球温暖化対策についての法的文書となる「パリ協定」を採択し、閉幕しました。その評価と今後の課題について大阪から公害をなくす会・地球環境委員会の「見解」を明らかにします。

(1)パリ協定について

 パリ協定の主な内容は、報道によれば以下のようになっています。

?世界全体の目標:気温上昇を産業革命前より2度以内に抑え、1.5度未満に向けて努力する。今世紀後半には、温室効果ガス・CO2の排出と吸収が均衡するようにする。

?各国の削減目標:各国は削減目標を作成し報告するとともに、達成のための国内対策を行う。目標は5年ごとに更新し、後退させない。

?途上国への支援:現在の年間1千億ドルを下限に積み増しする。また、先進国は拠出に義務を負うが、それ以外の国でも自主的に拠出することを奨励する。

?温暖化の影響への対策:温暖化の被害軽減策も重要な柱と位置づけ、既に途上国で起こりつつある被害の救済策も設ける。

?今後の予定:長期目標の向上や点検に向けて2018年に会合を持つ。

 2009年のCOP15以来6年間の紆余曲折を経て、世界の196ヵ国・地域が参加して、全ての国が地球温暖化の防止のため温室効果ガス・CO2の削減に取り組むことを確認し合ったことは、大きな成果・前進と言えます。(国連の加盟国数は現在193カ国)

 こうした成果・前進をもたらした背景には、IPCC(気候変動に関する政府間バネル)を中心にした世界の科学者の取り組み、世界各国での地球温暖化防止・温室効果ガス削減、地球環境を守ろうという環境団体・市民団体の運動、EU諸国での温室効果ガス・CO2の削減や自然エネルギー推進での積極的な取り組みが、世界各国の政府を動かしつつあることが挙げられます。同時に、海面上昇でキリバスやツバルが水没の危機にあること、世界各国で大洪水や干ばつ、大型台風やハリケーンが頻発していること、北極の氷床やアルプスなど高山の氷河が減少していること、農業や漁業での異変が起こっていることなど、現実に地球温暖化の影響が目の前で起こり始め、「人類の生存はこの会議の決断にかかっている」(ツバル・ソポアンガ大統領)、「も早や優柔不断や中途半端は認められない」(国連・潘基文事務総長)という意識が共通認識になってきていることも挙げられます。

 私たちは、地球温暖化の防止、温室効果ガス・CO2の削減は、人類の生存にとって共通かつ緊急の課題であることを認識し、「パリ協定」の批准と内容が忠実に実行されるよう引き続き監視と圧力をかけ続けることが重要となっています。特に、現在の削減目標は、出されている180の国の削減目標を足し合わせても平均気温は3度上昇すると言われる水準であり、引き続きより高い削減目標に更新させる取り組みが重要になっています。

(2)日本政府の問題点

 COP21で日本政府が表明した削減目標は「2030年までに2013年度比で26%削減する」というものでした。しかし、この目標は、1990年比で換算すると18%の削減にしかならず、EUの「2030年までに90年度比で40%削減。2050年までに1990年比で80〜90%削減」からすれば全く低い削減目標であり、引き上げが強く求められています。

 また、地球温暖化対策として原発が必要だという立場を取り、「日本、中国、韓国、ベトナム、オーストラリアは12月8日、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)の大臣級会合で、地球温暖化対策として原子力の利用を進めるとした共同声明を採択した」(「朝日」2015.12.9)ことも重大です。温室効果ガス・CO2の削減が求められるのは、それが地球温暖化の原因物質となって人類の存続を危うくするからです。原発は、発電の中では確かにCO2を出しませんが、必然的に処理方法のない高濃度放射性廃棄物という危険物質を大量に生成し、また、一度事故を起こせば広範囲かつ長期にわたって人々の生活と環境を破壊する点では、人類の生存を危うくする最たるものです。従って、温室効果ガス・CO2の増加と原発はどちらも許されないことであり、「地球温暖化対策として原発を」などという態度はとんでもない誤りです。
さらに政府は、石炭火力発電所の大量の建設政策を進めています。現在、全国で新規建設計画は48基(2350万kW)あり、その全てを稼働させれば、推計で年間約1億4100万トンのCO2が排出されます。日本のCO2排出量は2014年度で13億6500万トン(環境省2015.11.26)と言われており、CO2の排出量を1割も押し上げるなど、パリ協定の流れに逆行する暴挙と言わざるを得ません。途上国支援の中に「石炭火力発電所」を入れていることも許されないことです。

 日本の財界は、温暖化防止策について「産業界は自主的な取り組みで十分」「規制的な手法は取り入れるべきではない」「家庭部門で成果を上げることが不可欠」(昨年12月22日に開催された経産省・環境省の有識者会議での経団連や鉄鋼連盟代表の発言)という態度であり、日本の温室効果ガス・CO2排出量の4分の3を占める業界として、全く無責任な態度をとっています。企業活動の健全な推進、発展のためにも、産業界は温室効果ガス・CO2削減の先頭に立つべきです。

(3)今後の課題

 私たちは、パリ協定が“総論賛成、各論反対”“絵に描いた餅”にならないように監視と圧力をかけ続けるとともに、日本政府に対しては以下の点を要求します。

?温室効果ガス・CO2の削減目標を大幅に引き上げること。少なくともEU並みの目標に引き上げること。

?CO2を出さなくても高濃度放射性廃棄物という人類の生存を危うくする物質を出し、またいったん事故を起こせば甚大な環境破壊を引き起こす原発推進政策は止めること。

?温室効果ガス・CO2の削減というパリ協定の精神に100%逆行する石炭火力発電所の建設計画を中止すること。

?太陽光や風力、地熱、バイオマスなど自然エネルギー、再生可能エネルギーの推進と低エネルギー・低炭素社会への転換を国をあげて強力に推し進めること。

?温室効果ガス・CO2の削減は産業部門で取り組みが決定的に重要であり、産業界に対し厳しい指導を徹底すること。

身近な話として「桜の開花時期が早まって入学式のころにはもう散っている」「冬なのにタンポポやスミレが咲いている」「野菜がか細くなり、美味しくなくなってきた」などが言われます。これらが即温暖化の影響かどうかは別にして、身の回りで起こってきている変化、生活実感を基に地球温暖化問題を考え、家庭の中から、事業所や地域から、さらに行政区、府県単位で何ができるのか、何をやるべきなのかなどを議論し、日常生活や地域社会を見直していく取り組みも重要です。

終わりに

 気候変動・地球温暖化の影響に対する世界の科学者の警告がやっと受け止められ、パリ協定が締結されました。しかし、その発効には「世界総排出量の55%以上の排出量を占める55カ国以上の締約国での批准」が必要であり、温室効果ガス・CO2の削減目標も大幅であり、“本当に可能か”と言われるほどの高い水準です。パリ協定の内容を実効あるものにするために、国民の世論と運動が決定的であり、大阪から公害をなくす会・地球環境委員会は、引き続き気候変動・地球温暖化防止の取り組みを強化と継続を呼びかけるものです。

以上