2019年10月16日

大阪維新の会代表松井大阪市長及び吉村大阪府知事による「福島原発の処理水を大阪湾に放出する」旨の発言に断固抗議し直ちに撤回を求めます。

大阪から公害をなくす会
会長 金谷邦夫

 マスコミ報道によると、日本維新の会代表の松井一郎大阪市長が、先月17日、「東京電力福島第1原子力発電所の有害放射性物質除去処理水を大阪湾の海洋放出する考えを示した」と報道され、吉村洋文大阪府知事も同意見と表明されました。発言内容では、「自然界レベルを下回っているのであれば」「科学的に問題なければ」「国が問題ないといえば」などの条件を付けているので問題ないように聞こえます。しかし、この判断には多くの問題があり、私たち大阪から公害をなくす会としては、とうてい受け入れることができません。

 私たちは、大阪の大気環境の改善をはじめ、瀬戸内海の冨栄養化や底質汚染などの環境保全・改善、漁場を護る運動への支援、さらには、異常気象・地震での港湾防災強化などに長年取り組んできました。今回の発言は、「安全で安心な大阪へ」の府民の取り組みに水を刺すものであり、全く受け入れられません。

 そもそも、今回の福島原発の放射能汚染水は、すでに8年前の福島原発事故発生直後から発生し続けており、その処理方法については、東電と国をはじめ専門家により当時から調査検討されてきたものです。今回対象となっている「処理水」は、いろいろと議論されて結論が引き延ばされており、国レベルでも結論が出せずに現在に至っている問題です。

第1.「処理水」は「自然界レベル」でも「科学的に安全」でもない

 東電福島第1原発で出た「汚染水」は、この放射性物質トリチウム(注1)以外に大量のヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106など多数の放射性物質が含まれており、この「汚染水」を専用浄化装置(アルプス)で浄化したものを「処理水」と呼んでいます。しかし、実は放射性物質トリチウムそのものは除去できない装置ですので、タンクに保全されている処理水には、全タンク平均でおよそ100万ベクレル/リットル(以下Bq/L)という高濃度です。それを海水で薄めて放流するというが、「自然界レベル」は、1 Bq/Lのレベルであり、放流濃度はその60000倍ですので全く違っています。

 また、トリチウムの現在稼働中の原発排水の基準(告示濃度限度という)についても、実は安全であるかどうかの疑いがあり、すでに原発の周辺で健康影響がでているとの海外での調査報告(注2)もあり、「科学的に安全であるとは言えない」ものです。その基準が安全であるかは今後の調査が必要な段階です。

第2.「処理水」にはトリチウム以外の放射能物質が含まれているので、「安全」とは言えない

 今回の「処理水」は、原発の重大事故で発生したもので通常の原発排水ではなく、東電福島第1原発の「デブリ等にかかわる汚染水」です。放射性物質トリチウム以外にヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106など多数の放射性物質が大量に含まれているものです。これらの有害放射性物質を浄化装置で除いた水をタンクに「処理水」として保管していますが、そのタンクの「処理水」の水分析結果で「多数の有害放射性物質が基準濃度以上である水」だと判明しています(注3、4)。「東電や国が保証するなら安全」とはとても言えない状況です。それらを「再度浄化装置にかけてから排水」というが、このような東電の管理状況ではとても信用できません。なお、厳密には稼働中の原発排水のトリチウム基準は、重大な原発事故後の「汚染処理水」の基準ではないといえます。

第3.大阪湾に放流すると瀬戸内海を汚染し、取り返しできない重大なことになる

 この汚染水が本当に「安全」であれば、福島県でも処理できるはずですが、福島県の漁業関係者から強く反対されています。本来、重大事故の責任者である国と東電の責任において、処理すべきです。わざわざ大阪湾に放流する目的も効果も全くありません。1 Bq/Lという自然界レベルの60000倍の「トリチウム汚染水」を大阪湾に放流することは絶対ゆるせません。

 海水で希釈する前の放射性物質トリチウム高濃度100万Bq/Lの「処理水」について、わざわざ700kmも離れている大阪まで運んで処理するためには、運ぶ途中の多数の府県との調整も必要であることを理解していないと思われます。

第4.大阪湾に関する近隣県市への事前相談もなく、大阪市役所・府庁内のどの部署も事前にはしらない状況だった!

 このように多くの疑問や問題のある課題を、大阪湾に関係する他県・市との事前相談もなく、また、大阪府・市役所・両議会・関係する府・市民になんら提起して議論せずに、独断であたかも大阪の考えであるかのように発言し、独断で行政を動かすことは許されません。当然ですが、大阪湾や瀬戸内海の漁業関係者の意見を無視することは許されません。大阪府の漁業団体の「発言の撤回」を求める声明を私たちは強く支持します。

以上の4つの点から今回の発言に抗議し、ただちに撤回することを強く求めます。

以上

注1)トリチウムとは、質量数3の三重水素 す。水素には電子数は1だが、質量数(原子核中の陽子と中性子の数の和)が異なる3種類の同位体があり、質量数1の 軽水素 、質量数2の重水素、質量数3の三重水素 です。3つの水素は化学的な性質はすべて同じです。トリチウムだけが放射性核種で、 弱いエネルギーの β線を出してヘリ ウムに変わり、半減期は12.3 年です。

注2)トリチウムは、水素と化学的性質が同じで水の中に存在しますので、体内にとりこまれ、ベータ線によって内部被曝の危険性が大きいと考えられています。国内でも民間の手によりトリチウム排出の健康影響調査がなされて、疑問の声がでています。カナダ原子力規制委員会の報告では「遺伝障害、新生児死亡、小児白血病の増加が認められ、これらの原発周辺の健康被害として、ダウン症の発生率の増加や新生児の中枢神経の異常と高いトリチウム放出量との関係や、カナダの原子力労働者の被ばく関連癌の発生率が同一線量を被ばくした他の国の原子力 労働者のそれよりも高い関係」などと議論されています(2007年の報告)。

注3)浄化後の水質について、告知濃度限界を超えていないデータ(2014年9月20-28日)が掲載されていたが、実際には基準を超えるヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106などが残存しているデータもあることが明らかにされました。ヨウ素129については、2017年4月〜2018年7月の間に143サンプル中65サンプルで告示濃度超となっており、この期間の事実隠しが行われていました(2018年8月30日に富岡町で、31日に郡山市と東京で、国の小委員会はトリチウム水の処分に関する説明と国民から意見を聴く公聴会での情報より)。これでは東電の分析結果を国民が信用できないのは当然です。

注4) 西川榮一氏「大阪湾へのALPS処理水の希釈放流について 大阪府吉村知事・大阪市松井市長の受け入れ表明の問題点」(20190930)