基調報告 「公害・環境をめぐる情勢と私たちの課題」
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「基調報告」
公害・環境をめぐる情勢と私たちの課題

第42回公害環境デー実行委員会

<はじめに>

 昨年の第41回公害環境デーで私たちは、直前にあった総選挙で自公政権が復活したのを受けて、“自公政権は国会での多数を背景に、原発の再稼動・新設・増設などさまざまな悪法を強行してくる可能性が強い”“そんな情勢だからこそ、私たちは公害や環境問題などの府民運動を粘り強く取り組んでいくことが大事になっている”ことを確認し合いました。

 昨年夏の参議院選挙での自民党の圧勝はこの傾向をいっそう強め、安倍政権の“暴走政治”の出発点にもなりました。しかし、同時に参議院選挙では安倍政権と対極をなす日本共産党が躍進し、また、その後の選挙では、堺や岸和田の市長選挙で“反維新”の候補が勝利し、つい先日の沖縄・名護の市長選挙では、安倍政権の“札束”を使っての新基地の押し付けに対し、名護市民、沖縄県民は“新基地ノー”を明確に掲げる稲嶺候補を圧勝させました。今、日本の社会、政治を変えて行こうという流れが確実に広がっています。

 今回の第42回公害環境デーは、そうした情勢のもと、“今、わたしたちは行動する。未来世代のために”をスローガンに公害・原発をなくし、“地球環境を守る”“環境の保全・再生をめざす”府民集会として開催されています。この「基調報告」では「公害・環境問題をめぐる情勢と私たちの課題」をテーマに、情勢と課題について、概括的に述べることにします。

(1)環境問題めぐる国民的課題

1)原発問題

 東京電力福島第1原発の事故は、発生から間もなく3年になりますが、野田政権の「収束」宣言(2012年12月)、安倍政権の「汚染水漏れはコントロールされている」「港湾内に完全にブロックされている」(2013年9月)発言とは裏腹にますます深刻な事態になっています。4号機プールの使用済み核燃料の取り出しも始まったばかりで順調に行っても1年以上かかり、1号機から3号機に至っては、放射能が強すぎて近寄ることも出来ず、原子炉の中がどうなっているかも皆目分からない状態です。

 「収束」していないのは、原発事故の現場だけでなく、原発によって避難を強いられている周辺自治体の住民の生活もしかりです。原発立地地域周辺は今も立ち入りが禁止されている「帰宅困難区域」や昼間だけ立ち寄ることが許可される「避難指示解除準備区域」となっており、農地は荒れ放題、津波で打ち上げられた漁船は3.11のままの状態になっています。仮設住宅等で避難生活を送っている人は今も10数万人にものぼり、“原発事故関連死”者数は1605人と今や地震・津波で直接犠牲になった人数1603人を上回るまでになっています(2013年11月末)。

 にもかかわらず原発推進勢力は、相変わらず一日も早い原発の再稼動を求め、自民党の安倍政権も原発の再稼動と海外輸出に奔走しています。経産省が12月に発表した『エネルギー基本計画』素案は、原発を「基盤となる重要なベース電源」と位置づけて再稼動の必要性を明確にし、「必要とされる規模の確保」という文言を盛り込んで将来の新増設に含みを持たせたものになっています。「核燃料サイクル」も継続し、自然エネルギーについては「最大限の加速」といいながら“供給が不安定”だの“コストが高くなる”などの理由をつけて、困難性を強調したものになっています。

 原発事故による被害は、他の如何なる事故とも比較にならない規模、広範囲でしかも長期にわたって人々の生業と生活を奪ってしまいます。原発の事故は、まさに“最大の環境破壊”、“最大の公害”であり、何としても即時ゼロにする必要があります。昨年9月に大飯原発が定期検査で停止して以降、日本では原発の稼動がゼロになっています。それでも電力は足りています。“原発がなかったら電力が不足し、日本の経済は破綻する”などの話がまったくウソであること、単なる脅しに過ぎないことを事実が示しています。確信を持って原発ゼロの運動をすすめましょう。

 原発の再稼動と海外輸出に反対する運動、福島第一原発の汚染水漏れでは東京電力を即刻破たん処理にするとともに国の総力を挙げた対策を要求する運動が求められています。また、近畿では、いったん事故を起こせば琵琶湖が汚染され、真っ先に水問題が発生する大飯・高浜をはじめとする福井の原発群、あるいは事故を起こせば瀬戸内海全域を汚染してしまう伊方原発の再稼動に反対する運動が強く求められています。

 そのためにも金曜日の関電前行動や毎月11日を前後してのイレブンアクションなど、各地域で粘り強く運動をすすめましょう。福島から避難してきている人たちが起こしている東電と国に対する損害賠償請求の裁判も支援していきましょう。

2)気候変動・温暖化対策

 フィリピン中部を襲い死者4400人を超える被害者を出した台風30号、伊豆大島の“過去に経験したことのない”豪雨、アメリカで多発するハリケーン、エジプトの首都カイロでの112年ぶりの雪、パレスチナ自治区ガザでの大洪水など、異常気象は世界各国で猛威をふるい、大きな被害を与えています。その背景に地球の激しい気候変動、温暖化問題があることが指摘されており、気温上昇を「産業革命前と比べて2度以下に抑える。そのために2050年までに全世界で温室効果ガス・CO2を1990年比50%以下に、先進国では80%以下にすることが必要」という課題はますます切実になっています。

 昨年11月にポーランドのワルシャワで開催されたCOP19では、2020年以降に始まる次期枠組みづくりに向けて、「すべての国が2015年末に開かれるCOP21より『かなり早い時期。準備できる国は2015年3月までに』温室効果ガス削減目標をつくって提出する」ことで合意しました。削減目標を明示せず、各国の自主目標の積み上げ方式をとるなどの不十分さはありますが、いずれにしても温室効果ガスを削減していこうという方向性を確認して、世界の国々が粘り強い交渉と努力を積み上げていることは重要です。

 ところがこうした中で、際立って後退した姿勢を示したのが日本の安倍政権で、その内容は2020年度までに「2005年比で3.8%削減する」と言うものです。“3.8%削減”といっていますが、世界の共通基準である1990年比に直すと「3.1%増」になるとんでもない目標で、フィージーの代表からは「先進国が初めて期間中に目標を引き下げた歴史的な会議だ」と批判され、交渉を後退させた国に授与される「化石賞」の特別賞が贈られるほど、全世界から厳しい批判を浴びました。しかも許せないのは石原環境相が「原発の稼働がゼロだから、誰が計算してもこうなる」などと、温室効果ガス削減への責任を放棄し、“温室効果ガスの削減”には原発が必要と誘導していることです。

 IPCC第1作業部会が昨年9月にまとめた第5次評価報告書第1作業部会報告書は「1880年〜2012年に世界の平均気温は0.85度上昇した」「1992年〜2005年に海洋深層の水温が上昇した可能性が高い」「過去20年にわたりグリーンランドおよび南極の氷床の質量が減少し、氷河はほぼ世界中で縮小し続けている」「今世紀末までに気温の上昇は最大4.8度に達し、海面上昇は82センチメートルになる可能性がある」と警告しています。

 気候変動、温暖化防止対策もまた待ったなしの課題です。未来世代のために今求められていることは、京都議定書の議長国であった日本が温室効果ガス・CO2の削減で積極的な目標をかかげて先進国の役割を果たすこと、EU諸国の先進的な実践と経験に学び、自然エネルギー・再生可能エネルギーの推進に本腰を入れて取り組むこと、同時に省エネ・低エネルギー社会への転換を具体的に進めていくことです。

3)地震・津波・防災問題

 大阪府の南海トラフ巨大地震対策等検討委員会(部会長・河田恵昭関大教授)は、昨年11月30日、南海トラフ巨大地震が発生し、3割の人が避難行動を起こさなかったと仮定した場合、「大阪府では最大13万人が死亡する」「地震10分後に全員が避難を始めれば8800人まで被害を軽減できる」「大阪市内には2時間弱で津波が到達」「建物の全壊は約17万9千棟」、浸水想定は「大阪市の3分の1の計7146ha。此花区は最大5m、JR大阪駅周辺でも最大2mの浸水」などの被害想定を発表しました。また、首都直下型地震も近い将来、高い確率での発生が予想されています。

 日本は1995年の阪神淡路大震災以後、再び地震の“活性期”に入ったといわれており、東日本大震災の教訓も踏まえた地震・津波・防災対策が求められています。

 こうした情勢を反映して昨年11月の国会では、太平洋岸のうち特に津波の危険性が高い地域を“特別強化地域”に指定し、避難タワーや避難路の整備費の3分の2、高台移転のための用地取得・造成費の4分の3を国が補助するなどの南海トラフ地震対策特措法が、また、東京都と周辺4県を“緊急対策区域”に指定し、政府機関の移転先と機能維持のための計画作り、自治体には帰宅困難者対策やライフライン確保のための計画作りを求める首都直下型地震特措法が成立しています。

 一方、国土強靭化基本法なるもの(正式名称は「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」)を制定していますが、その内容は6海峡横断道路(東京湾口、伊勢湾口、紀淡海峡、豊予海峡、関門海峡、島原天草長島連絡道)の建設など、“国土強靭化”に名を借りた巨大事業開発の復活、オンパレードになっています。しかもそうした事業を“国際競争力の向上”の名のもとに外国資本を呼び込んで実行しようとしており、また、防災・減災の身近なところでの取り組みは「自助、共助、公助の適切な組み合わせ」で行うとして国がやるべき仕事を欠落させているのが特徴です。

 地震・津波対策、防災として今求められていることは、学校、保育所、公共施設、地下鉄、高速道路などの改修や耐震強化などのハード面とともに、避難ルートや避難所の確保・徹底、避難訓練などソフト面の対策を強化することです。このままでは震災対策、津波対策としての“国土強靭化”が、それとは無縁の国費を湯水のようにつぎ込む巨大プロジェクトとして、大企業や外国資本の儲けの対象になりかねない危険性をはらんでいます。

4)食品、TPP、その他

 昨年、世間を騒がせた大きな事件として、“食材偽装”問題があります。その内容は食材をあたかも高級(高値)な食材であるかのように表示して高額な料金を取りながら、実際は安い食材を使って暴利を得たり、「牛脂注入肉」を「ステーキ」と表示するなど、商品を実際より著しく優良だと表示することを禁止した「優良誤認表示」に当たるものなどです。食品の偽装表示は詐欺罪であり、企業の消費者軽視・利益優先の行為であって、決して許されるものではありません。

 同時に、この“食材偽装”が横行する背景に、輸入食材を国産品として表示すれば高く売れて利益がでるという構造、突き詰めれば食糧の自給率が低下してきている問題を指摘しなければなりません。例えば虚偽表示の多いエビの自給率は5%で、大半は輸入品であるという指摘もあります。牛肉の自給率は1985年が72%だったのに対し2012年には42%にまで低下しています。

 TPPへの参加はこうした傾向にいっそう拍車をかけるだけでなく、アメリカの食品会社のための“食品衛生法や食品表示規制の緩和”“遺伝子組み換え食品(GM食品)の輸入規制の緩和”、生命保険会社のための“自由診療の拡大”、自動車産業のための“環境基準の緩和”などが狙われています。日本の農業を壊滅させるだけでなく、「食」をはじめとする私たちの生活と日本の経済を危機に陥れるTPPからは即時撤退する以外にありません。

 また、国民の健康不安、不健康を逆手にとって“サプリメント”や“健康食品”などが洪水のように宣伝され、購買を煽っていますが、健康のためのには食生活をはじめ生活環境、労働環境、自然環境など総合的な対策が重要であり、そうした健康づくりのための総合的な施策こそ求められます。

(2)大阪の被害者救済運動の到達点と課題

1)泉南アスベスト国賠訴訟

 大阪高等裁判所第13民事部は2013年12月25日、大阪泉南アスベスト国倍訴訟第2陣控訴審で国に総額3億4474万円の支払いを命じる原告勝利の判決を言い渡しました。

 判決は、?国はアスベストの被害を防止するための局所排気装置の設置、防塵マスクの使用、特別安全教育の実施を義務づけするべきであったのに「やらなかった」国の責任を厳しく認め、?国の被害者の対する直接の責任と被害に対する責任の重大生を指摘して、全損害の2分の1を限度として賠償すべきである、?慰謝料基準額もこれまでのじん肺訴訟基準から100万円増額する、など国の責任の明確化と被害救済のあり方の抜本的な見直しを迫る画期的なものでした。

 判決を受けて原告・支援者は国に対し、正月返上で「上告するな!解決交渉のテーブルにつけ!」と迫りましたが、国は2014年1月7日不当にも上告をしました。今後、判決をテコにした「命あるうちの解決」を求めるたたかいが、いよいよ正念場を迎えます。

2)寝屋川「廃プラ」公害の根絶に向けて

 寝屋川「廃プラ」公害の根絶と被害者救済をめぐる住民運動は、2013年1月に公害等調整委員会(公調委)による環境調査(化学物質の調査)と接地逆転層の形成を調べる温度調査が職権で行われ、2月には検診を行ってきた医師と健康被害を訴える住民への証人尋問も行われました。

 そうした取り組みのうえに2013年12月10日、公調委による説明会が開催されましたが、その運営は、公調委の取り組みについて理解を深めてもらうための説明会と位置づけられ、一般へは非公開・議事録等も作らないというものでした。また、内容的にも5000〜1万マイクロ?/㎥のTVOC(揮発性祐樹化合物総量)について「高濃度かどうかの判断尺度は幾つかある」とか、「規制値等基準の定まっていない物質の健康影響については判断できない」など健康被害の原因追及の姿勢とは程遠いもので、さらに「今後、新たな職権調査は行わない。対立構造のもとでは当事者が主張を立証するのが原則だ」などと立証責任を住民側に押し付ける開き直りの姿勢を示しました。

 寝屋川「廃プラ」公害の問題は、“予防原則”の立場に立って、先ず健康被害者の救済、そして、原因の解明をさせるたたかいであり、引き続き粘り強いたたかいが求められています。

3)ぜんそく被害者の救済運動

 2012年から、消費税増税と引き換えに公害補償の財源の一部(20%)である自動車重量税の廃止を求める自動車工業会との攻防が続いていましたが2013年12月、ようやく決着がつき、患者の命綱・公害補償を守り抜くことができました。12月13日、自民・公明の税制調査会(税調)は2014年度税制改正大綱で自動車重量税については、「道路等の維持管理・更新や防災・減災等の推進に多額の財源が必要となる中で、その原因者負担・受益者負担としての性格を踏まえる。また、その税収の一部が公害健康被害補償の財源として活用されていることにも留意する」と明記しました。これによって自動車重量税は当面存続し、公害補償の財源として維持されることになりました。

 大気汚染によるぜん息等呼吸器の病気で苦しむ人は増え続けています。東京都では5年前、大気汚染公害裁判の和解によりぜん息患者の医療費救済制度ができて7万6000人が救済されています。同制度も東京都が「2015年で新規認定の打ち切り、2割負担導入」を打ち出し、激しい攻防が続いています。

 大阪では2012年3月府議会に「医療費無料化条例」の請願(30,075筆)を提出しましたが不採択でした。その後、運動の主体「未認定患者の救済を求める会」、支援組織「あおぞらプロジェクト大阪」の活動も休眠状態になっています。

(3)道路公害、道路行政

1)道路問題をめぐる新たな動き

 安倍内閣は「国土強靭化基本法」を成立させ、10年間で200兆円ともいわれる巨大開発事業の復活、拡大を進めようとしていますが、関西圏においても関西の再生を目標に4環状ネットワーク(大阪都市再生環状道路・大阪環状道路・関西中央環状道路・関西大環状道路)の構築や、関西の道路ネットワーク(ミッシングリンク整備の遅れ改善)をめざして、凍結されていた「新名神高速道路」の未着工区間の復活や「淀川左岸線延伸部計画」、名神湾岸連絡線、大阪湾岸道路西伸部等の高速道路建設が動き始めました。

2)大阪における道路公害反対運動について

 大阪では阪神高速湾岸線から新御堂筋をへて第二京阪道路につなぐ「阪神高速淀川左岸線・延伸部計画」が進められています。現在、一期事業は昨年5月供用が開始されましたが、二期事業は淀川堤防と道路の安全性、施行方法等について問題点が明らかとなり、「技術検討委員会」において検討が行われています。しかし、いまだに工事開始のめどは立っていません。また、延伸部計画については不採算を理由に2006年12月以降、事業は凍結されていましたが、2013年1月に凍結が解除され、都市計画決定に向けての準備が進められています。淀川左岸線計画の沿線では道路公害反対大阪連絡会(道公連)に結集する此花・福島・北区と延伸部住民によって公害道路は許さない運動が粘り強く取り組まれています。

 阪神高速湾岸線と松原線をつなぐ「大和川線」ではすでに一部供用が開始され、全線開通は2014年末とされています。堺市では道路公害から子どもを守る住民の運動が続けられています。

 2006年に事業が凍結されていた「新名神高速道路」は2012年事業が認可され工事が着工されています。予定地の枚方市では国土交通省やNXCO西日本等への反対運動が広がっています。

 その他、高速道路「泉北線計画」廃止後の跡地に「風かおる“みち”」をつくる運動(東住吉区)や「阪神高速湾岸線」の騒音・粉塵被害に対する「府営なぎさ住宅自治会(泉大津市)」の運動も進んでいます。

3)大阪府下における道路や公共交通機関の問題点について

 高度経済成長期に造られた道路や橋梁、トンネル等の老朽化は大阪においても深刻な問題となっています。阪神高速一号環状線は1964年の建設からすでに50年近くを経過し、他の道路インフラについても老朽化と、損傷の危険性が増加しています。これからの人口減少や高齢化、環境問題の深刻さ、道路網の普及状況、経済状況などを考えると、道路政策の重点は「道路を造る」から「守る」へ転換させていかねばなりません。

 一方、大阪では「市営地下鉄の売却民営化」や「市バス・赤バスの縮小、廃止」、「泉北高速鉄道」の株式を米投資ファンドに売却する動き等、公共交通機関の売却・民営化計画が強められています。さらに橋下市長は 「淀川左岸線延伸部計画」や新大阪と空港をつなぐ「なにわ筋線」の建設計画を打ち出すなど無駄な公共工事を進めようとしています。これらの計画を許さない府民の運動を広げていきましょう。

 私たちがめざす道路・交通体系は、これまでの自動車依存の社会から歩行者、自転車、公共交通機関を優先する交通体系に転換していくことです。現在の鉄道・地下鉄・バス等の公共交通機関を一体的な機能として集約し活用することや、人の歩行や自転車の利用を拡大する道路整備、次世代路面電車(LRT)を中心とした道路・交通システムの検討等が求められています。

(4)大阪府・市の公害対策・環境行政

1)独法化された環境農林水産総合研究所のその後

 大阪府は、2007年に環境、農林、水産(海と淡水)の4機能(機関数は3つ)を統合したうえで、2011年に地方独立法人としました。産業振興を目的とする農林水産と環境を統合したところに、府の環境問題への姿勢があらわれています。現在、環境研究を専門にする研究職員は、同研究所からいなくなっています。環境分野の研究は、技術職員(府からの出向者が中心)にゆだねられ、環境分野での研究業務の将来を見えなくしています。

 私たちは、「環境農林水産総合研究所」の独立行政法人化に対し「府民の健康を守るための環境の監視・保全、農林水産業を守り発展させるための調査、研究、技術指導、環境や食品の分野での危機管理などで、行政が果たすべき“公的責任”を果たせなくなる」として批判し、中止するよう要求しました。今後ともこうした課題に対する公的責任を果たさせる取り組みが重要になっています。

2)公衛研・環科研の統合と独立行政法人化問題

 大阪府と大阪市は、大阪府立公衆衛生研究所(以下、公衛研)と大阪市立環境科学研究所(以下、環科研)を2014年4月から統合し、独立法人化しようとしています。大阪府と大阪市ではこれまでにも保健所の統廃合などを進められてきましたが、現府知事と大阪市長となってさらにその動きを加速させ、“都構想”を前提に「効率化」「官から民」へと水道事業の統合、大阪市営地下鉄の民営化などを提案してきました。今回の公衛研と環科研の統廃合計画もそうした流れの一環です。

 大阪府と大阪市では昨年(2013年)2・3月議会で、統合・独法化のために必要な新しい研究所の定款案と評価委員会の規約案が議決されました。その後、12月議会で統廃合後の当該の職員の身分について条例を定めることで決定するとしていましたが、府議会では独法化関連(公衛研の廃止)を可決したものの、大阪市議会では継続審議となりました。公衛研と環科研の統廃合は、地方自治体が住民の健康・安全を守ることを放棄することにつながる重大問題です。住民の暮らしと健康を守ることこそ地方自治体の本分であり、公衛研、環科研という二つの地方衛生研究所を直営の事業として存続させるために、それぞれの重要な役割を府民・市民に知らせ、2・3月議会で廃案に持ち込む運動が求められています。

3)大気汚染対策

 1978年7月、二酸化窒素の環境基準を2〜3倍に緩和してから、大阪府内102か所の測定局全局で上限値の0.06ppmを達成したのは2009年のことで、31年もかかりました。その後も、局地汚染は依然として深刻で、大阪でも国道43号の大和田西(西淀川区)、市岡元町(大正区)、国道1号の大日(守口市)などでは高濃度汚染が続いています。

 中国からの越境汚染でにわかに脚光を浴びるようになったPM2.5による汚染はさらに深刻で、国の環境基準を大きく上回る汚染が続いています。大気汚染公害裁判の和解で2005年度から測定している西淀川区(国道2号、43号)の4カ所の測定局は環境基準をクリアしたことは一度もありません。

 環境省は2009年の環境基準の公示以降、PM2.5の測定体制の整備を進めていますが、測定器が設置されたのは1800余ある常時監視測定局の半分にも満たない800カ所余りです(2013年度末)。大阪府内の測定局の整備も遅れており、府が管理する26局中2013年度末でようやく20局の設置にとどまっています。加えて、国による成分分析や発生のメカニズムの解明が遅れていることを理由に、PM2.5の削減目標・計画、有効な対策が立てられないまま推移しています。国の対策とともに、自治体による削減計画の具体化が求められています。大阪府、大阪市が持つ大気環境に関わる監視・研究機関の活用や体制強化も不可欠です。

4)地震・津波・防災

 大阪府の松井知事は、南海トラフ巨大地震対策等検討委員会の被害想定を受けて、防潮堤や堤防の沈下対策を今後10年間で完了させるとの方針を打ち出しました。その内容は、「沈下対策が必要な総延長89キロの防潮堤の地盤に杭を打ち込んだり、薬剤を注入して地盤を固くする」「総事業費2100億円の財源は国会で成立した“特措法”を活用し、国の補助も含めて府が1300億円、大阪市が800億円を負担する」などとなっています。

 津波対策として防潮堤や堤防の液状化対策は必要ですが、それ以外にも大阪では梅田に象徴されるような巨大な地下街や地下鉄(大阪市営地下鉄の30駅が浸水とも)への浸水対策、木造密集住宅や高層・大規模建築物の耐震化、避難場所の確保や住民への情報提供、保育園、学校、消防署、役所、医療機関、障害者・高齢者の利用施設などの対策、さらにはいざと言う時に機能し得る自治体職員の確保など、ハード・ソフトの両面から短期・中長期の総合的な対策が求められています。地震・津波対策を“防潮堤の液状化対策”に矮小化させてはなりません。

5)原発・エネルギー対策

 大阪府市エネルギー戦略会議(会長:植田和弘京大教授)は2013年5月に『大阪府市エネルギー戦略の提言』をまとめ、発表しました。その内容は「地震国であるわが国においては、原子力発電の社会的・技術的な制御にはより困難な課題が多く、少なくとも現時点では使用済み核燃料の処分を含めて、その安全性は担保されていない」として、「可能な限り速やかに原子力発電に依存した電力供給体制から脱却すべきである」とし、また、新たなエネルギー確保としての再生可能エネルギーの拡大と省エネルギーの推進をすべきだと強調しています。

 『大阪府市エネルギー戦略の提言』は、単に一自治体の“エネルギー戦略”を述べるに留まらず、日本のエネルギー政策のあり方として“原発依存からの脱却”から“再生可能エネルギーの拡大と省エネルギーの推進”への転換を提言しています。同時に、特に大阪府・市の責務と役割について、関西電力管内での最大の電力消費地であること、また、琵琶湖を水源としており福井の原発で万一事故が発生した場合には甚大な被害が発生すること、さらに大阪市は関西電力の筆頭株主であること、などの理由をあげて脱原発での大阪府・市の役割を強調しています。

 『大阪府市エネルギー戦略の提言』で提起されている積極的な内容を、“提言”に終わらせることなく大阪府市をはじめ各自治体に実施させる運動、さらには私たちの運動に生かす取り組みも重要になっています。

6)自然エネルギー・温暖化対策

 自治体における自然エネルギーの推進では、“温暖化防止対策”などの面から、水道事業を活用しての小水力発電(堺市や豊中市)、ゴミ処理施設などの公共施設を使っての太陽光発電(八尾市など)などが行われています。また高槻市では「地域新エネルギービジョン」として?太陽エネルギー(太陽光発電と太陽熱利用)、?廃棄物エネルギー、?バイオマスエネルギー、?環境教育・啓発の4つを柱にした取り組みがすすんでいます。市民レベルの事業としても東淀川区のECOまちネットよどがわ、西淀川区の大阪ファルマプラン、東大阪市のぽっぽ共同保育所やかわちの医療生協、いずみ市民生協やパルコープ、八尾市の都塚太陽光発電所(個人)などで太陽光発電の取り組みがすすめられています。自然エネルルギー市民の会などによる市民共同発電所の取り組みもすすんでいます。

 一方、企業でも大規模太陽光発電や高効率コンバインドサイクルによる発電、木質系廃棄物による発電、建設廃材を主原料にしたバイオエタノールの製造などに取り組む企業が増えています。

 自然エネルギー推進の取り組みは、条例をつくって推進する自治体もうまれています。いずれにしてもそれぞれの地域で、そこにある資源を活用しながら多面的に推進していくことが重要であり、自治体と市民運動の果たす役割が非常に大きい分野です。“夢とロマン”を持って積極的に取り組んでいきましょう。

7)大阪市の水道事業の民営化問題について

 大阪市は市の水道事業が厳しい経営環境にあるとして、「効率性の追求」(施設と人員の徹底したスリム化・効率化による安定経営)、「発展性の追求」(本市の技術力を活かし、国内外での新たな事業展開)、「規模の拡大」(一元的なガバナンスのもと、広域化による規模の拡大)という3つの柱をかかげ、これを実現するには民営化が必要として、2015年度には水道事業を民営化する計画を打ち出しています。

 水道事業は下水道事業とともに、市民生活、都市生活に1日たりとも欠かすことの出来ない最も重要なライフラインであり、かつ、代替のきかない事業です。こうした水道事業の特性を踏まえ、水道水の安定給を図る観点から、水道法では水道事業は原則として市町村が経営するものとされています。そのよう重要な公共事業を民営化することは絶対許されないことです。とりわけ今、南海トラフ巨大地震や福井の原発群で事故が起これば琵琶湖の水が飲めなくなる等々が言われる情勢にあり、水道事業の民営化は防災の面から見ても論外の話だと言わざるを得ません。

<終わりに>

 公害健康被害者の救済の運動、原発をなくし自然エネルギーを推進する運動、温室効果ガス・CO2を削減し地球温暖化を防止する課題、地震・津波対策、防災の取り組みなどは、「環境」をキーワードに相互に関連し合っています。情勢は安全・安心の環境を守り、つくろうとする私たちと、環境を破壊しても自己の利益追求を最優先する勢力との激しい綱引きの時代です。

 公害・環境問題での私たちの運動をいっそう発展させ、平和・民主主義を守る運動とも連携し、要求実現のために大いに奮闘しましょう。

以上

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