「基調報告」〜公害環境をめぐる情勢と課題〜
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第43回公害環境デー「基調報告」
〜公害環境をめぐる情勢と課題〜

2015年2月1日
第43回公害環境デー実行委員会

はじめに

 今年は、「阪神淡路大震災から20年目の年」「戦後70年」という節目の年になります。改めて地震・津波・防災問題や平和・民主主義・憲法の大切さについて確認し合うことが大事になっています。

 今年はまた、一斉地方選挙さらには大阪府知事選挙・大阪市長選挙がたたかわれる年です。私たち大阪府民は、かつて府民の粘り強い要求運動の上に革新府政を実現し、老人医療の無料制度や全国一厳しい公害規制、公衆衛生行政の拡充など様々な要求を実現しました。

 そうした情勢と歴史を念頭に、公害環境をめぐる情勢と課題について報告、提案します。

(1)公害被害者の救済をめぐって

1.泉南アスベスト

 最高裁は2014年10月9日、健康被害の発生が明確なアスベストに対して有効な規制措置を取らなかった国の不作為責任を認定し、原告勝訴の判決を下しました。最高裁判決で2陣訴訟は確定し、大阪高裁に差し戻された1陣訴訟も12月26日に和解が成立しました。原告と弁護団、勝たせる会などの粘り強いたたかいとたたかいを支援した多くの人々の画期的な勝利であり、その点を先ず確信にしましょう。

 同時に最高裁判決は、特定化学物質障害予防規則(特化則)が施行された1972年以後に石綿の仕事を始めた被害者や近隣ばく露・家族ばく露による被害者を救済の対象から除外しているという問題点も持っています。また、アスベストの問題は、1970〜90年代に“夢の建材”として大量に使用され、その時代に造られた建造物の取り壊し、建て替えの時期を迎え、今後ますます大きな課題になってきます。そうした点を踏まえて、以下の点を要求します。

?少なくとも国がアスベストの全面禁止をした2006年までに発症した被害者および近隣ばく露・家族ばく露による被害者も含めて全面救済すること。

?大阪の自治体としてアスベスト工場内や周辺地域での疫学調査を実施し、アスベスト被害の実態を明らかにしながら国に対して一日も早い全面解決を働きかけること。

?アスベスト含有建物を公表すること。また、アスベスト使用の建築物、上下水道、橋梁、道路建築物などの解体時におけるアスベスト飛散対策を徹底すること。
これからの被害が予想されるアスベスト建材を含むたいものの改築や解体については、「絶対に飛散させない」という予防の原則に立って、専門家を自治体に配置して現場で点検するなど、抜本的な対策に改めること。国はEUにならって、期限を切って、アスベスト全面除去方針を明らかにすること。

?旧アスベスト工場で放置されたままになっているアスベストは無害化して地中に埋設するという方針で、中小企業の場合などは国が費用負担して万全を期すこと。

2.寝屋川「廃プラ」

 国の公害等調整委員会(公調委)は2014年11月19日、「廃プラ施設から特徴的な化学物質が排出しているが、……接地逆転層の発現状況にもかかわらず、大気中で十分に拡散・希釈されているものと推認される」「本件各施設から排出された化学物質が住宅地域に到達し、健康被害を生じさせていると認めることはできない」として、被害住民からの原因裁定の申請を却下する裁定を下しました。

 この裁定は、専門家による疫学調査や医師による検診の結果、何よりも廃プラ施設が操業を開始してこの10年間に1000人を超える住民からの発疹や喉のイガイガ、目のかゆみなどの訴えを無視するものであり、健康被害に苦しむ住民の人権を否定するものです。私たちは以下の点を要求します。

?「廃プラ」処理事業者と自治体、国は、処理工場の操業ともに住民の間に健康被害が発生しているという事実を真摯に受け止め、「完全な科学的根拠が欠如していることを対策延期の理由とはせず、科学的知見の充実に務めながら対策を行う」という予防原則の立場に立った対応を行うこと。

?当該自治体(寝屋川市)と大阪府は、住民からの健康被害の訴えに耳を傾け、実態調査と疫学調査による原因の特定、除去・防止を行うこと。

?寝屋川市をはじめとする4市は環境省が廃プラの熱利用(サーマルリサイクル)として認めている焼却発電に使うなどし、健康被害をもたらしている現行の「廃プラリサイクル」方式を中止すること。

3.ぜん息患者等の被害者救済

 1988年に公害指定地域が解除されて以後、ぜん息患者は公害患者として認定されなくなり、一般疾病の患者と同じ扱いになりました。そのため、医療費の負担が家計を大きく圧迫し、“せめて医療費だけでも無料に”が、こうした未認定・未救済の患者に共通する切実な願いになっています。

 こうした中、東京都では2008年8月からぜん息患者の医療費助成の対象年齢をそれまでの18歳未満から全年齢に広げ、さらに東京都全域を対象にする「大気汚染医療費助成制度」を発足させました。この制度による認定患者は2013年度末で約9万5000人となっており、「お金の心配をせずに通院・入院が出来るようになった」(72.2%)、「自分の病気が公害によるものだと認められてよかった」(57.42%)、「積極的にぜん息治療をしようと思えるようになった」(52.8%)、「ぜん息の症状が改善した」(36.3%)などとなっています(東京経済大学・尾崎准教授)。残念ながら東京都の助成制度は2015年4月から18歳以上の新規認定を打ち切る、経過措置として2015年3月末までに認定した18歳以上の患者には助成を継続するが、ただし全額助成は3年間で、その後は上限6000円超分を助成ということに改悪がされましたが、いずれにしても未認定・未救済のぜん息患者への医療費助成が重要であることが実証されました。

 以下の点を要求します。

?ぜん息は公害病であることを認め、未認定・未救済のぜん息患者への救済制度を国の制度として創設すること。

?それまでの施策として大阪府独自の医療費助成制度を、自治体・道路公団・自動車メイカー3者の負担によって創設すること。

4.水俣病

 2014年11月23・24日に行われた水俣病一斉大検診では、熊本、鹿児島にまたがる不知火海岸地域に居住歴があり、水俣病の自覚症状をかかえる447人が受診し、その結果97%の人に水俣病の症状があることが確認されました。内訳は「水俣病特別措置法」に基づく救済の未申請者が259人、指定地域外や生まれた年代で「非該当」とされていた人が147人、その他が41人だったといいます。

 この検診結果は、水俣病特別措置法による申請は2012年7月末で打ち切られましたが、申請の受付を打ち切ったからと言って患者がいなくなったわけではないことを示しています。公害被害者の救済は、最後の1人が救済されるまで手を尽くすことが大切であり、近畿・大阪でも認定されず苦しんでいる水俣病の患者の掘り起こしの取り組みが重要になっています。

 裁判では現在、「すべての水俣病被害者の救済」を掲げてノーモアミナマタ第2次訴訟が提起され、大阪でも19人が大阪地裁に提訴し、第1回口頭弁論が2月6日に開かれます。支援の輪を大きく広げていきましょう。

(2)大阪の公害環境・公衆衛生行政

1.NO2やPM2.5などの大気汚染対策

 府民が健康で安心して暮らせる環境を維持することは、地方自治体の重要な課題の一つです。

 大阪の大気をめぐる状況は、確かにかつての工場など固定発生源から排出されるSOxなどは1971年に誕生した革新府政の全国一厳しい環境行政によって大幅に改善しましたが、ディーゼル排ガスなど移動発生源を主要因とするNOxはほとんど横ばい状態にあります。行政はNO2の環境基準0.04ppm〜0.06ppmというゾーン規定を勝手に解釈し、0.06ppmを下回れば“環境基準を達成”と言いますが、その下で数万人とも推計されるぜん息患者が発生しています。環境基準とは人が健康に暮らせるための基準であり、数万人にも及ぶぜん息患者が発生しているのであれば、環境基準(地方自治体においては環境保全目標)はもっと厳しく改定されるのが当然です。

 また、SPM(浮遊粒子状物質)より細かく肺の深部まで到達し、呼吸器系疾患だけでなく循環器系にも大きな悪影響を及ぼすといわれるPM2.5(微小粒子状物質)は、2009年9月に年平均値15μg/m3、日平均値35μg/m3の環境基準が設けられましたが、大阪の多くのところでクリアーできていません。

 こうした点を踏まえて以下の点を要求します。

?大阪府の『新環境総合計画』に盛られたNO2環境保全目標は、「二酸化窒素の日平均値0.06ppm以下を確実に達成するとともに、0.04ppm以上の地域を改善する」といったあいまいな数値目標ではなく、「0.04ppm以下にする」と明記し、達成期限も明確にすべきである。

?PM2.5の観測体制については、その拡充と合わせてデータの分析をする体制を強化し、対策を具体化すること。また、現在の日平均値だけを公表するやり方から、時間値も公表する体制に改善すること。

?大気汚染とぜん息など呼吸器疾患の因果関係、相関関係を明らかにするために、行政として学校や医療機関の協力を得て疫学調査を実施すること。また3歳児検診で掌握した小児や小児ぜん息医療費助成を受けた生徒の15歳以後などの追跡調査を行うこと。

?大気汚染対策としてディーゼル車の排ガス規制を引き続き強化するとともに、ホットスポットと言われる局地対策の徹底、公共交通機関を中心に据えたECO型交通体系を確立すること。

2.公衛研と環科研の統廃合・独立行政法人化の問題点

 大阪市の環境科学研究所(環科研)は大阪市域を対象にした公衆衛生と環境保全業務を担当にしています。一方大阪府の公衆衛生研究所(公衛研)は衛星都市をエリアにするとともに、大阪府全体の公衆衛生や環境保全業務を担当しています。こうして両者は公衆衛生・環境保全業務としての共通性を持つとともに、環科研は大阪市という大都市での公衆衛生業務と環境問題、公衛研は衛星都市を守備範囲にしながら大阪府全体の公衆衛生業務を担当するという特別の役割を担っています。

 そうした役割の違いを無視して、公衆衛生という共通性の面だけをとらえて統合することは、大阪市立大学と大阪府立大学を大学という共通性のみをみて統合しようとする暴論とも相通じるものです。しかも独立行政法人化は行政の責任を放棄して、結局は公衆衛生行政、環境行政の後退につながります。

 従って私たちは以下のように要求します。

?SARS、鳥インフルエンザ、デング熱、エボラ出血熱など昨今の情勢は検疫や感染対策、公衆衛生業務の充実を求めており、そうした情勢に対応して環科研、公衛研ともにより一層拡充すること。

?環科研と公衛研の統廃合や独立行政法人化は、大阪の環境・公衆衛生業務の縮小、公的責任の放棄につながるものであり、絶対しないこと。

3.「食」の安全や保健所、水道事業、ゴミ処理問題など

 ここ数日、大手外食産業での食品への異物混入や鳥ウイルス発生など、食の安全をめぐる情勢は、とても安穏としておられる状況にはありません。その背景には、国と地方自治体が自治体改革だと言って、公衆衛生業務の民間委託化や検疫体制の弱体化をすすめてきた経緯があります。TPPへの参加はこうした傾向にいっそう拍車をかけ、農業や医療、雇用などあらゆる面に影響を与え、国民生活の安全と日本の経済を危機に陥れる可能性が大です。

 公衆衛生業務の拠点である保健所は、かつては人口30万人に1カ所の設置義務があり、環境監視・食品監視の技術職員が配置されていましたが、「地域保健法」への改定とともに、2000年以降大幅に縮小され、大阪市に至っては各区に1カ所あった保健所が今では全市で1カ所に縮小されました。難病、母子保健、精神疾患、感染症対策などが大きな課題となっている現在の情勢を考えれば、住民生活の安全・健康をバックアップする保健所の役割を再評価するべき時期に来ています。

 また、大阪市では水道事業の民営化が画策され、いくつかの自治体ではゴミ処理事業の民営化、有料化が検討されています。水道事業は公衆衛生の面からも重要な事業であり、災害時には交通機関とともに重要な役割を担います。ゴミ処理は無料を原則にすべきであるとともに、貴重なエネルギー資源、再生可能エネルギー資源として積極的に活用する方途を行政として追求すべきものです。

?公衆衛生行政の砦となる保健所を再評価し、情勢に合わせて強化・拡充すること。

?食の安全の守り手である「食品監視員」を大幅に増強し、立ち入り検査もできる体制を構築すること。

?公衆衛生の基幹的業務である「大阪府公衆衛生研究所」や「環境科学研究所」を統合しないこと。

?災害対策はもとより公衆衛生な的視点からも大阪市の上下水道事業は公営を維持すること。

?各自治体のゴミ処理事業は直営・無料を原則とするとともに、エネルギー資源として活用する道を行政として積極的に追求すること。

(3)道路問題

 大阪の道路建設の柱となっている「大阪都市再生環状道路」は大阪市の外側を取り巻くように走る周囲約60kmの環状道路です。その一つが湾岸線と近畿自動車道を結ぶ「淀川左岸線計画」です。一期事業は2013年5月に供用を開始。二期事業は用地買収が98%完了しながらも、淀川堤防に道路構造物を埋め込む工法が堤防の安全を損なう危険性があるとして「技術検討委員会」で再検討が行われ計画は実質中断しています。

 左岸線延伸部は6年ぶりに事業が凍結解除され大きく動き出しています。阪神高速大和川線は大和川の南岸を東西に走る9.9kmの道路で1995年に計画化、2016年にも全面供用が予定されています。また、同じく凍結されていた「新名神高速道路」(八幡〜箕面)は2012年凍結が解除され事業計画づくりが進められています。

 一方、左岸線予定地沿線では此花、福島、北・都島・鶴見区等で粘り強い運動が進められ、一期ではフタ懸けや脱硝装置の設置を実現させました。二期では「中津リバーサイドコーポ環境守る会」が府公害審査会での調停を続けるとともに、「技術検討委員会」議事録の公開を求めて「大阪市情報公開審査会」に申し立てを行ってきており、昨年末、公開審査会は議事録の全面公開を答申しました。延伸部では「淀川左岸延伸部工事と町づくりを考える会」を中心に沿線での学習会等が取り組まれています。

 大和川線では「高速道路から子どもを守る会」が、脱硝装置の設置を求めて署名運動等に取り組んでいます。「新名神」では「ひらかた新名神を考える会」が結成され、道路構造の問題点や排気ガス対策などについての学習会やNEXCOとの交渉など「住民合意」を掲げて運動が進められています。その他、道路公害問題については、泉大津市の「なぎさ住宅」で4号湾岸線からの環境基準を超える騒音や粉塵に対して「人間らしく暮らせる環境を」と大阪府や阪神高速?に対策を求めて取り組みが進んでいます。また、高速道路・大阪泉北線計画から風かおる道・天王寺大和川線計画実現に向け、阿倍野・東住吉・住吉区でも粘り強い取り組みが行われています。

 以上のような現状をふまえて以下の点について要求します。

?高速道路淀川左岸線2期事業及び大和川線事業については、東南海地震等により発生する地震・津波・液状化現象等により、淀川及び大和川の堤防が崩壊する危険性が危惧されている。特に淀川左岸線二期では「技術検討委員会」が堤防の安全性と工法等について検討を行っており、大阪市と阪神高速?は住民や専門家の意見を尊重すると共に安全が保障されない計画は中止すること。また、大気汚染の要因となる排気ガスの空中への放出をとりやめ脱硝装置の設置すること。

?淀川左岸線延伸部及び新名神高速道路計画については、その殆んどが「地下・トンネル構造」であることからシールド工法等による地盤変容や大深度地下の利用に係る問題点など住民の不安は大きい。関係自治体及び阪神高速?・NEXCO西日本は住民への丁寧な説明を行うとともに、住民合意を得られない計画は中止すること。

?交通量が多く大型車の混入率の高い高速道路の沿道では騒音・排気ガス・粉塵・振動等による生活環境への被害が発生している。阪神高速?や関係自治体は住民の生活環境を守るための対策を早急に講じること。また、採算性も必要性も低い高速道路の建設を中止し、老朽化対策や生活道路の点検・補修に予算を回すようにすること。

(4)地震・津波など防災問題

1.南海トラフ地震など巨大地震・津波等への対策

 1995年の阪神淡路大震災以降、日本は地震や火山の活性期の入ったと言われます。実際、昨年1年間だけを見ても、昨年9月には御嶽山が大噴火を起こし、11月には長野県白馬地方で震度6弱の活断層地震、さらに九州の阿蘇山のマグマ噴火などが発生しています。長野県白馬地方の地震では地層が最大1メートル移動したことも観測されています。

 一方、M7〜8、最悪35都府県で家屋の全壊240万棟、死者32万人の被害が想定されている南海トラフ巨大地震については、今後30年以内の発生確率が70%と推計され、また、政府の地震調査研究推進本部は12月19日、都道府県庁所在地での今後30年以内の震度6弱以上の地震の発生確率について、近畿地方では和歌山市60%、奈良市49%、大阪市45%、神戸市34%などと発表しています。
こうした状況を見るとき、以下のような対策が求められます。

?大阪府をはじめとする各自治体は、南海トラフ巨大地震や上町断層帯直下型地震への対策について明確にすること。

?特に大阪湾隣接地域では、港・湾岸部の船・コンテナ・石油タンク対策、地盤の液状化、超高層ビル、巨大地下街、木造密集住宅対策を明確にすること。

2.異常気象による集中豪雨や巨大台風対策

 また、異常気象による集中豪雨、ゲリラ豪雨、巨大台風、竜巻などが頻繁に発生し、各地に甚大な被害を発生させています。気候変動・温暖化によって日本が亜熱帯化してきているといわれる情勢にあって、こうした異常気象はますます多くなり、しかも巨大化する可能性があります。8月に広島市内で起こった大量降雨による地滑りの被害は決して他人事ではなく、大阪でも十分起こり得る問題です。

?集中豪雨、ゲリラ豪雨、巨大台風、竜巻等への対策を明確にし、防災対策を再検討すること。

?特に局地的集中豪雨、ゲリラ豪雨対策、あるいは神崎川、淀川、寝屋川、大和川などの河川対策を徹底すること。

?堤防の下にトンネルを造って高速道路を通す淀川左岸線・同延伸計画は、地震・津波、大洪水対策など防災の面から徹底して見直すこと。

3.避難計画問題

 こうした自然災害や原発事故などが発生した場合への備えとして、大阪府をはじめ各自治体での総合的な避難計画が重要になってきています。次の点を要求します。

?各種の防災・避難計画は住民と一緒になって作成し、丁寧な説明と日常不断の訓練を実施すること。

?いざ災害発生という時に対応出来る専門職を各自治体に配置すること。

(5)気候変動・温暖化の防止、自然エネルギーの推進について

1.気候変動・温暖化対策の推進

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2014年11月3日、地球温暖化に関する第5次評価報告書の仕上げとなる「統合報告書」を公表しました。内容では、「1880~2012年の133年間に地上の気温は0.85℃上昇している」とし、その要因として「CO2の累積排出量と世界平均気温・地上気温の上昇は、ほぼ比例関係にある」との新しい見解が出されました。このことは、現在のCO2の排出量を続けると、あと30年足らずで工業化前(1850年ごろ)からの平均気温の上昇が2℃を超えてしまうことになります。平均気温の上昇が2℃を超えると、人類の健全な生存が脅かされる恐れがあると考えられています。地球温暖化の防止は遠い将来の課題ではなく、喫急の課題となっています。

 大阪のCO2排出量は、大阪府発表の2012年度データによれば年間約4600万トンで、排出量の全体量に占める割合は産業部門38%、運輸部門14%、民生(家庭)部門21%、民生(業務)部門22%、廃棄物部門3.9%、エネルギー転換部門0.9%となっています。全体でCO2排出量の74%を占めるは産業部門、運輸部門、民生(業務)部門での削減が重要であることを示しています。一方、こうした中、現在全国で25基、計1364万kWの石炭火力発電所の建設が計画されており、近畿では神戸製鋼が神戸市灘区に2基で140万kW、伊藤忠エネクスとエア・ウォーターの2社が大阪市大正区に最大10万kWの石炭や木材を燃料に使う発電所の建設を計画しています。石炭火力発電は、どんなに高効率でもガス火力発電の2倍以上のCO2を排出するものであり、時代の要請に逆行するものと言わざるを得ません。

 温室効果ガス・CO2の削減は全世界的、全人類的課題であり、次のことを要求します。

?温室効果ガス・CO2の上昇が人類にとって危機的な事態を招くというIPCC報告などを基に、温室効果ガス・CO2削減が全世界的、全人類的課題になっていることを徹底して啓蒙すること。

?温室効果ガス・CO2削減のためにCO2の大量排出企業に対し、削減目標の締結と具体的指導を徹底すること。また、省エネ・低エネルギー社会の実現を身近なところから行う府民運動をすすめること。

?気候変動・温暖化対策に資するエネルギーとして地域の特性を生かした自然エネルギーを評価し、その推進するために、各自治体で『自然エネルギー推進条例』などを制定し、行政・住民・業者・専門家が一体となって強力に推進すること。

?温室効果ガス・CO2の削減という時代の要求に逆行する石炭火力発電の新増設を止めること。また、現在使用中の石炭・重油火力発電所は、低CO2・高効率の発電所に切り替えるよう発電会社を指導・監督すること。

2.COP20.21について

 削減策としてIPCC統合報告は、「2050年までに温室効果ガスの排出を2010年比で40〜70%減らし、今世紀末には排出をゼロにするかそれ以下にすることが必要だ」と述べています。こうした中、京都議定書に加わらなかった中国はCO2の国内総生産(GDP)当たり排出量を2020年までに2005年より40〜50%削減する計画を打ち出し、批准しなかったアメリカも温室効果ガスの総排出量を2020年までに05年比で26〜28%削減する方針を表明しています。

 こうした動きの上に南米ペルーのリマで開催されたCOP20は2014年12月14日、合意文書として「気候変動に対する行動のリマからの呼び掛け」を採択し、来年末にパリで開催されるCOP21で合意をめざす2020年以降の温室効果ガス削減の新しい国際協定に盛り込む項目や、新協定に向けて来年3月までに各国が国別目標案を提出することを確認しました。目標案の中身では、削減の基準となる年や実施期間のほか,なぜその目標が野心的だと考えるかについての説明が求められています。

 大枠とはいえ先進国、途上国含めてパリ合意の土台となる文書が合意されたことは一歩前進と評価されます。しかし日本政府の代表は削減目標について、「出来るだけ早期に提出する」との見解に留まるなど世界の足を引っ張り、再び「化石賞」が贈られています。以下の点が重要になっています。

?CO2の削減について、日本政府が国際公約した2025年までに1990年比で25%、2050年までに80%削減の目標を掲げて取り組むよう、日本政府に働きかけること。

?「共通だが差異ある責任」の原則に立って、日本が先進国としての役割を発揮し、途上国への支援、援助に積極的に取組むこと

3.太陽光発電・風力発電の接続保留問題

 世界的な課題になっている温室効果ガス・CO2削減、そのためにも自然エネルギーの推進が重要になってきていますが、そうした時代の要請に逆行する動きもあります。その一つが太陽光発電・風力発電の接続申込みに対し、電力会社が回答を保留している問題です。保留しているのは北海道、東北、四国、九州、沖縄の5電力会社で、「太陽光・風力発電の接続契約申し込み量の全てが接続され、これらの全てが発電すると、冷暖房の使用が少ない春や秋の晴天時などには、昼間の消費電力を太陽光・風力による発電電気が上回り、電力の需要と供給のバランスが崩れ、電力の安定供給が困難になる」というのが口実ですが、他の電源による発電を減らすとか、揚水発電の稼働によって発電エネルギーを蓄積するとか、他社への融通を行うシステムを確立すれば解決する問題です。
?電力会社の太陽光・風力発電等の接続保留を止めさせ、自然エネルギーを急速に増やすための施策を全国的視野にたって進めること。

(6)脱原発で安全・安心の社会へ

 大飯原発3・4号機の運転差止請求に対し福井地裁は2014年5月、人の生命と生存こそ最も大切なものであり、それを脅かす事故の可能性が万に一つでもある原発は運転してはならないとの判決を下しました。またこの判決では、原発を稼働させなかったら高い原油を買うことによって貿易赤字となり、国富が流出・喪失するという議論に対し、「これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」と経済優先の考え方を厳しく批判しました。

 ところが安倍政権は、2014年7月に原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける新『エネルギー基本計画』を閣議決定しました。こうした閣議決定を受けて、原子力規制委員会は2014年10月には鹿児島・川内原発について火山の影響の過小評価、避難計画の欠落にもかかわらず再稼働OKの決定を下し、12月総選挙の2日後には関西電力高浜原発3・4号機の再稼働に実質的なGOサインを出しました。電力各社も勢いづき東北電力が大間原発の稼働、関西電力が高浜原発1・2号機の使用期限延長などを申請ないし申請の準備を進めています。福島第1原発の事故の原因も解明されていない中での再稼働は許されません。

 また、関西電力は2013年5月に家庭用9.75%、企業用17.26%の電気料金の値上げをしたばかりなのに、大飯原発や高浜原発が稼働していないことを口実に再び2015年4月からの家庭向け平均10.23%、企業向け13.93%の値上げを経産省に申請しています。脱原発・自然エネルギー推進に切り替えることなくいつまでも原発に依存し続けながら、自社の経営のみを優先して電気料金を値上げしようとする関西電力に対し、厳しい抗議の声を集中しましょう。

?九州電力の川内原発、関西電力の大飯・高浜原発などの再稼働に反対し、原発ゼロ社会の実現に向けて行政として役割を果たすこと。

?“原発はクリーンなエネルギー”と言う誤った宣伝に対し、行政として明確に反論し、自然エネルギーこそ持続可能な社会に必要なエネルギーであることを確認すること。

?いつまでも原発にしがみつきながら電気料金の値上げを進める関西電力に対し、脱原発の方向に切り替えるとともに、値上げ計画にストップをかけること。

?大阪に避難してきている原発被災者に対し、健康管理や住宅、就労等の援助を行うこと。

おわりに

 冒頭でも述べたように、今年は「戦後70年」の節目の年に当たります。戦争は人の命を大量に奪うとともに“最大の環境破壊”となるものであり、二度と起こしてはならないことです。核兵器もまた同様であり、5月に開かれる国連で開かれる核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議が核兵器の廃絶に向けて大きな一歩にすることが求められています。

 安倍政権は総選挙の結果を受けて、アベノミクス、消費税増税、原発の再稼働、集団的自衛権の行使や憲法9条の改悪などを強行しようとしていますが、どの世論調査をみても国民の願いは全く逆です。安倍自公政権が3分の2以上の議席を占めたことを軽視はできませんが、恐れることなく私たちの住民運動、府民運動を大きく発展させましょう。
 

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