泉南アスベスト国賠訴訟2陣高裁での勝利判決の意義
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泉南アスベスト国賠訴訟2陣高裁での勝利判決の意義

泉南アスベスト国賠訴訟弁護団
弁護士 岡  千 尋

(1)判決内容について

 昨年12月25日に言い渡された泉南アスベスト国賠訴訟(2陣)高裁判決は、以下に述べるように、1陣高裁判決を完全に否定し、2陣地裁判決も大きく上回る大変意義のある判決です。

1)判決のポイント

 ?規制権限不行使の違法の判断基準
  労働関係法令によって国に付与された省令制定権限は、労働者の生命、身体に対する危害を防止し、その健康を確保することを主要な目的として、できるだけ速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく、適時かつ適切に行使されなければならない。従って、国の規制権限不行使の違法は、この趣旨、目的に沿って規制権限が行使されたかどうかで判断される。
 ?国の怠慢(規制権限不行使)は何か。
  ・昭和33年から局所排気装置の設置を義務付けるべきであった。
すでに、この時点で、国は、石綿肺の重大な被害発生を予見することが可能であり、局所排気装置の設置を義務付ける技術的基盤も存在した。
  ・局排気装置の設置を義務付けた昭和46年以降も、国には、怠慢があった。
   昭和47年には、発がん性や中皮腫の知見も集積されたこと等もあり、使用者に対して、労働者にマスクを使用させることを義務付けるべきであった。また、その補助手段として、特別安全教育を義務付けるべきであった。さらに、昭和49年9月30日には、抑制濃度の数値を日本産業衛生学会の勧告値(1㎤あたり2本)に見直すべきであった。その見直しが昭和63年まで遅れた。
 ?国は、被害者に対して直接的に責任を負っており、違法期間が長期(37年間)であること、違法内容も基本的な粉じん対策全般にわたっていること、義務違反の程度も重大であることなどを考慮して2分の1の限度で認める。
 ?人の生命、身体、健康は、行政活動において常に尊重されるべきであり、継続的に作業場内に立ち入っていた運送業者の従業員も、労働関係法令に基づく規制権限不行使を原因とする不法行為責任(損害賠償)に関しては保護範囲に含まれる。
 ?喫煙などの個別の減額理由を全て否定して、石綿関連疾患の重大性を指摘して、基準慰謝料額をそれぞれ100万増額した。

2)判決の評価

 国の長期の違法を認め、違法内容も基本的な粉じん対策全般について認め、さらに、責任範囲を2分の1とするなど、本件の全般的な争点について、ほぼ全面的に原告主張に沿う判断を行っており、2012年3月の2陣地裁判決からも大きく前進した。
 筑豊じん肺最高裁判決や関西水俣病最高裁判決などの最高裁判例の到達点も踏襲しており、間違いなくあらゆる意味で1陣高裁不当判決を乗り越えた判決であり、2つの地裁判決の存在も含めて考えれば、1陣高裁判決の特異性を一層明らかにした判決である。
 7年半に亘る審理を集大成した極めて優れた明快な判決である。

(2)勝利判決を勝ち取った要因は何か

 こうした判決を勝ち取れた要因は、基本的には、1陣高裁判決の苦い経験を踏まえて、控訴審において常に緊張感を持って妥協することなく、各論点に関して主張・立証を尽くしたこと、法廷外でも、全国からの25万を超える公正判決署名が寄せられ、7年間にわたる定期的な裁判所周辺での宣伝活動、公害等の被害者団体代表による連名アピールや公害等の主要弁護団代表者による連名アピール、アスベスト関連の学者を中心とする100名を超える学者アピール、さらに「風の会」に加盟する主婦連などの消費者団体代表によるアピールなど各分野からのアピール運動など、多彩な取り組みを継続的に行ったこと、何よりも被害の深刻さなど救済の必要性、被害者の声を裁判所に届け続けたこと、そして、2012年12月の建設アスベスト東京訴訟での勝利判決が追い風になったことなどを指摘できる。
 また、そうした原告側主張等を正面から受け止める裁判体であったことも大きい。

(3)最高裁での勝利の展望について

 ・舞台は最高裁に移るが、最高裁には、いのちや健康よりも産業発展が優先するとした1陣高裁不当判決(三浦判決)をとるのか、今回の2陣高裁判決をとるのか、厳しい選択、判断を迫ることになる。
 ・2陣高裁判決は、最高裁判例の流れに沿っており、事実認定でも2陣控訴審で新たに出された証拠も含めて豊富に証拠を拾っており、説得力がある。また、2陣高裁判決ばかりか、二つの地裁判決も2陣高裁判決を支持している点も重要である。
そうした点を考えれば、最高裁が、2陣高裁判決を覆そうとすれば、これまでの最高裁判例を見直すことが必要となるはずであり、それはそれで最高裁といえども困難な作業である。
 ・さらに、2陣高裁判決は、国が、責任を否定するためになりふり構わず行ったあらゆる主張を、ことごとく「完膚なきまで」に明快に論破し、退けている点も重要である。
 ・2陣控訴審の審理は、裁判所が特に関心を持っている事項を明示して、双方に主張立証を尽くさせ(諸外国との比較や濃度規制など)たうえでの判断であり、手続き上も、公平かつ公正な手続きのなかでの判断である。
 ・マスコミを中心に、1陣高裁判決を非難し、2陣高裁判決を支持する世論は広範に形成されている。
 ・油断や手綱を緩めることは絶対に出来ないが、最高裁において、早期に2陣高裁判決を支持する判決を勝ち取れる展望は十分にある。

(4)今後の闘いについて

 ・2陣高裁判決の優れた内容、最高裁の状況、行政や政治の困難な状況、広範な世論を形成してきている状況、否が応でも最高裁で絶対に勝つ最高裁闘争が不可欠であること、それも短期間での取り組みが要請されていること、今後は、最高裁闘争を基軸にして、そこでの「早期勝利判決」を勝ち取り、その勝利判決を梃子にした早期全面解決をめざしていく。
 ・同時に、政治や行政には、引き続き解決を行うべき政治責任、行政責任があり、引き続き政治への働きかけも行っていく。
 ・泉南アスベスト被害の早期救済と、建設アスベストなどすべてのアスベスト被害の救済、万全なアスベスト対策の実現に向けて、引き続き大きなご支援をお願いしたい。

以上


大阪・泉南アスベスト国賠訴訟(第2陣訴訟)

声明
(国の道理なき不当上告に断固抗議する)

大阪・泉南アスベスト国賠訴訟原告団・弁護団

1 昨年12月25日、大阪高裁(第13民事部)は、1陣地裁判決、2陣地裁判決に続いて、三度、国の規制権限不行使の責任を認める判決を下した。これに対して、国は、本日、上告する旨を明らかにした。
原告団と弁護団は、国の道理なき不当上告に断固抗議するものである。

2 2006年5月の第1陣訴訟の提訴以来、本判決までに12名の原告が死亡し、さらにこの上告期間中にも1名の原告が死亡した。生存原告らも病状の悪化に苦しんでおり、「命あるうちの解決」は、文字どおり原告らの待ったなしの切実な願いである。国の上告は、原告らの願いと期待を大きく裏切るものであり、断じて許すことはできない。

3 この間、118名の与野党の国会議員から「泉南アスベスト被害の早期全面解決を求めるアピール」への賛同が寄せられ、12月25日には全野党の国会議員らが連名で、26日には自由民主党・公明党のアスベスト問題の責任者が、それぞれ上告断念を含む早期解決の決断を要請した。泉南アスベスト国賠訴訟の早期全面解決は、世論はもとより、政治においても多くの支持を得ている。

4 原告・国の双方は、本判決に至るまで7年半にわたり主張、立証を尽くした。そのうえで、本判決は、国の責任逃れの主張を完膚なきまでに退け、国が依拠した1陣高裁の不当判決(2011年8月)を完全に否定した。国は、本判決を謙虚かつ真摯に受け止め、早期に被害者救済に踏み出すべきであった。
国の上告は、国民のいのちと健康を守る責務を放棄し、いたずらに被害者の苦しみを引き延ばすものでしかない。このような国の姿勢は、いのちや健康よりも産業発展が優先するという1陣高裁判決にすがるものであり、そこには何らの大義も道理もない。

5 原告団と弁護団は、引き続き、「命あるうちの解決」を実現するため、国に対して、泉南アスベスト被害の早期全面解決を強く求めると共に、最高裁においても全力で闘い抜くことを表明する。

2014年1月7日


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