文書報告3 水ビジネスと水道
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文書報告3

水ビジネスと水道 

植本眞司(近畿水問題合同研究会事務局長) 

1 水道の法的位置づけが危ない

 水道法は、第1条において「この法律は、水道の布設及び管理を適正かつ合理的ならしめるとともに、水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成することによつて、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もつて公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的とする。」と規定し、第六条第2項において、「水道事業は、原則として市町村が経営するものとし、市町村以外の者は、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り、水道事業を経営することができるものとする。」と規定しています。

 つまり、いつでも、だれでも、安価に市町村が経営する水道水の供給を受けられることを国が国民に保障しています。

 しかし、水道を所管する厚生労働省が主導する水道事業基盤強化方策検討会の第5回会合(2015年12月24日開催)において、水道法の第1条に規定される「低廉」という文言を「適正価格」と解釈すべきこと、第6条第2項に規定される市町村経営原則の見直しに言及しています。

 民間企業に水道事業への参入を促進し、企業の採算が取れる水道料金の設定を可能とするものといえます。自治体の住民への水道供給責務の放棄、生活必需分の水道料金を低廉にするために国や自治体から水道事業への税金の投入についての法的根拠をなくそうとしているもの言わざるを得ません。

 2010年7月28日、国連総会において「水と公衆衛生は基本的人権である」という宣言が決議されました。日本政府はこの宣言の趣旨を理解し、水をビジネスの対象ととらえるのではなく、水へのアクセスは基本的人権であり、国民への飲料水供給を保障するべきです。 

2 大阪市の水道民営化案

 2015年8月、大阪市の「水道事業における公共施設等運営権制度の活用について」(実施プラン案)の修正版が発表されました。浄水場や管路などは市が所有し、それを使って民間会社が水道事業で収益あげる上下分離方式を行うとされています。これは、民間企業が責任を負い切れない莫大なインフラへの投資、災害時のリスクを自治体に残し、そして100億円とも言われる固定資産税逃れの手法です。

 民間会社は当初は100%市の出資で、早期に民間の出資を受け入れ、職員は大阪市を退職し新会社に就職、職員数は現行の1600人を1000人以下とし残りは非正規化を進めるとされています。給与は会社の発展に貢献した社員に「積極的に報いる給与制度」を採用し「物言わぬ社員」作りの中で働かそうとしています。

 大阪市に残る業務は、新会社が要求水準を守っているか否かをチェックするモニタリングで、わずか職員20名体制です。

 人件費削減等により費用を圧縮し耐震化を促進、また、世界トップレベルの技術力を発揮して海外展開するとし、住民の関心が高い水道料金については、「上限があるから大丈夫」としています。しかし、その上限も議会の承認で変更は可能であり、その上限額内であれば値上げは市会に報告のみのため、今より容易に料金変更できる仕組みです。

 水道事業の財政状況や事業計画、業務内容について、公営であれば、市議会で審議され、シビリアンコントロールがなされていますが、民営化されれば、シビリアンコントロールが弱まる可能性があります。

 民営化後の水道事業会社は、従業員は非正規に置き換えられ、業務の外注が増えれば、従業員の入れ替わりも激しくなる可能性が高くなります。技術力をはじめとした業務継承ができにくく、安定的な事業運営は困難になるでしょう。しかしながら、平均給水量日量120万.、料金収入約600億円の巨大な水道事業がすべき業務の質や量は低下させられません。しかしながら、たった20名の市の職員だけでモニタリングすることは困難です。現状でも中小の事業体では従来からの「委託」のモニタリング業務さえ十分にできていないことは国も認めています。

 杭打ち工事のデータ改ざんが世間を騒がせていますが、以前の耐震偽造問題、輸入食品の安全など、公的機関での監視が欠かせないものは多く、それは住民を守るために大切な業務です。20人の「精鋭」が数年もすれば現場実務経験のない職員に置き換わり、モニタリングも十分にできない丸投げの状況となるでしょう。民営化が安全、安心という面から最良の方法なのかを考える必要があります。 

3 世界の水道民営化の弊害と再公営化の流れ

 日本政府は水道民営化の進めようとしていますが、世界では再公営化の流れがトレンドとなっています。

 2000年ボリビアのコチャバンバ市では水道民営化により35%にも及ぶ大幅な値上げが行われ、それに抗議して市民暴動が起き、結局、経営していた会社が撤退したことは有名な話です。

 民営水道の拠点であったフランスのパリでは、2008年に上水道事業の再公営化を公約に掲げた市長が誕生したことで、2010年には公営に戻されました。株主配当などにまわされていた収益をサービス向上のための再投資に回すことができるとされ、民営化によって管路耐震化の促進が図れるとの宣伝と全く逆のことが、起きていたことがその大きな要因といわれています。 

  長期にわたり地域住民の安全、安心を保障することよりも、利潤の追求、資本の蓄積、株主への配当を優先せざるを得ない民間企業に水道事業をゆだねることの危険性が明らかになっています。 

4 水道民営化、水ビジネスとの対決軸

 安倍内閣は2013年6月、「PPP/PFI の抜本改革に向けたアクションプラン」を策定し、今後10年間で12兆円規模のPPP/PFI事業を推進するとし、さらに2014年6月には2016年までの3年間に2.3兆円規模の公共施設等運営権事業(コンセッション)、空港6件、水道6件、下水道6件、道路1件の数値目標を公表して前倒しの推進をしています。 

 2013年の時点ですでに120件以上の第三者委託が実施されています。しかし、その大部分が簡易水道や中小事業体であり、改正水道法そもそもの目的であった技術力が脆弱であることを理由
にした第三者への委託です。しかし、今後、大阪市の例のように急速に中核都市事業体から大規模事業体において、民営化を広げようとしていることは明らかです。また、民営化と同時に事業統合・広域化も加速していくことと思われます。

 このような動きに対して、水道労働者や地域住民はどのように闘いを構築していけばよいのでしょうか?

 民営化が「世界で失敗している」といった単純な図式での反対運動に陥らず、政府や財界の狙い、地元の水道事業体の財政や自己水源などの状況を分析し、多くの地域住民と共有しながら、国民の基本的人権を保障するための水道事業を持続発展させるために必要な、法律、財政、制度の構築を政府に求めていくことが必要です。 

参考文献 

自治と分権 62 現場レポート 「命の水がビジネスに」
 自治労連公営企業評議会 渡辺 卓也 

日本水道新聞 2016年1月1日

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