文書報告4 府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所の独立行政法人化の問題点
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文書報告4

府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所の独立行政法人化の問題点 

奥村早代子(公衆衛生研究所の府立存続と発展をめざす会) 

1.地方衛生研究所

 地方衛生研究所は、地方衛生研究所設置要綱によって位置づけられています。設置目的は、「地域保健対策を効果的に推進し、公衆衛生の向上及び増進を図るため、都道府県又は指定都市における科学的かつ技術的中核として、関係行政部局、保健所等と緊密な連携の下に、調査研究、試験検査、研修指導及び公衆衛生情報等の収集・解析・提供を行うこと」です。行政機関や保健所をデータの裏付けによって支える大切な行政機関です。地方衛生研究所の業務は、利益を生み出すものではないため、これまで独立行政法人化を検討してきた東京都、横浜市において、独立行政法人化では組織の存続が困難などとして、都立あるいは市立での運営を確認し、横浜市立衛生研究所は、老朽化した施設を立て替え、平成26年12月から新しい研究所で業務を開始しています。 

2.大阪府立公衆衛生研究所(公衛研)と大阪市立環境科学研究所(環科研)

 公衛研は、感染症・食中毒といった健康危機事象の原因を究明するための検査を行うとともに、食品や医薬品、家庭用品、水道水等の安全性確保のための検査を日々行っています。環境放射能については、国からの委託を受けて大阪府域の調査を継続して行っています。

 公害に関しては、昭和 38 年に公害部が設置され、昭和 43 年に公害監視センターが設立されて、公害関係調査業務は公害監視センターに移管されました。その後、昭和46 年に公害衛生室が新たに設置され、環境や公害に関する健康調査を行い、大阪府の環境衛生行政に大きく貢献してきました。しかしながら、平成 15 年に公害衛生室は廃止され、現在は生活環境課でその役割を引き継いでいます。

 環科研では、市町村の業務として位置付けられている(都道府県の業務には含まれていないもの)ごみ焼却施設やその周辺環境に関する調査研究や大都市域に特有の問題も業務対象です。公衛研は、大阪市の地方衛生研究所の役割のすべてをフォローすることはできません。

 研究所の統合では、公衛研は環境関係の業務を行っていないという理由で、環科研の環境分野は大阪市で整理し、衛生部門だけを統合する内容になっています。これによって大切な環境部門での技術的中核機能を大阪市から消失してしまうという結果につながります。 

3.全国 79 か所、すべて公立運営

 地衛研は、全国の都道府県や政令市、特別区など全国に 79 あります。2000 年の独立行政法人法施行以降、国や地方自治体の研究所が次々に独法化されてきました。しかし、健康危機管理に関係する研究所については、国も(国立感染症研究所や国立医薬品食品衛生研究所)地方自治体もすべて公立で運営しています。新しく政令市となった岡山市では、平成 27 年 4 月から新たに地方衛生研究所を運営しています。

4.求められるのは公衆衛生の機能強化と充実

 国は、地衛研を設置する地方自治体に対し、強毒性の新型インフルエンザ等の感染症や広域化する食中毒の発生に備え、地域保健対策の科学的かつ技術的中核機関として地研の一層の充実強化を図るように求めています(2012 年 7 月 31 日付健発 0731第 8 号厚生労働省健康局長通知)。 

5.イギリスでは、独立行政法人化で公衆衛生が後退し、再び公的組織に

 イギリスでは「小さな政府」の方針のもと、さまざまな行政機関が民営化されました。公衆衛生も例外ではなく、国民の健康は、医療を無料化することで達成されるという方針のもと、衛生研究所が独立行政法人化されました。しかし、感染症の拡大が抑制できないなど、公衆衛生行政が大きく後退しました。イギリス政府は、健康危機管理にかかわることは「民営化」「独立行政法人化」はなじまないと判断し、2013 年に公衆衛生体制は国民の健康保護にかかわる政府の責務を担う組織であり、専門組織としての特徴を発展させ、行政当局の権限も使える存在として格上げし、保健省そのものの組織として一体化しました。現在イギリスでは、公衆衛生行政と公衆衛生専門組織、検査分析機関が一体となり、相互に結びつき、地域レベル、国レベル、EU レベル、世界レベルにつながる体制となっています。 

6.府民の健康・くらしの安全を守る仕事は独法ではできない

 独立行政法人とは、行政が「自ら主体となって直接に実施する必要のないもの」について、行政から切り離し、「効率性の向上、自律的な運営を図ることを図ることを目的とする制度」(総務省HP)とされています。

 大阪府と大阪市は、主体的に府民の健康と安全を守る業務を投げ出すことにほかなりません。地衛研の業務、その中でも最も大事な「健康危機管理に対応する業務」は、公衛研が普段から高い検査技術を維持し、国や保健所、行政機関との連携を取って業務を行っていたからこそできたことです。

 地独法では、民間委託や指定法人の活用等、徹底した効率化を図ることが求められます。つまり、業務が切り刻まれて検査が民間などに委託され、予算が削られ、分析機器や標準試薬の整備ができなくなり、人員削減が日常的に行われ、技術の継承ができなくなり、年々、健康危機管理に対応する能力が低下し、そう遠くない将来に府民の皆さんへの影響が現れるであろうと考えます。

 公衛研が果たすべき役割やこれまで行ってきた地道な業務は、地方自治体が主体的に行うべきものであり、効率化や効果を優先する独法ではできません。 

7.独法化の経緯と議会での議論の紹介


平成23年12月 公衛研と環科研が「2重行政の無駄」とされ、統合の対象に
平成24年 9月 トップダウンで独法化方針決定
--地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所定款の制定等2条例---
平成25年 2月議会 大阪府・大阪市の両議会で賛成多数で可決成立
  (共産・民主・OKASAみらいは反対)
---大阪市環境科学研究所条例を廃止する条例案他関連議(5または2件)案---
平成25年 9月議会  大阪府で可決、大阪市では閉会中継続審議
平成26年 5月30日 大阪市会で閉会中継続審査
平成26年 9月議会  大阪市会、維新以外の反対多数で否決(1回目)
平成27年 2月議会  大阪市会、維新以外の反対多数で否決(2回目)
平成27年 9月議会  大阪市会、維新以外の反対多数で否決(3回目) 

これまで、大阪市議会での各党の発言内容紹介。(議会議事録より抜粋) 

  • H26/12/17 多賀谷議員(自民党)
    いわゆる効率論とか組織論で一緒にすべきだとか、二重行政だというふうなことで一緒にすべきだという意見がまかり通っておるんですけれども、実際には大阪市民にとってどうなのかということをしっかりと議論すべき。
    大阪市の責任をしっかりと持つあり方を改めて検討し直す必要がある。
  • H26/12/17 石原議員(公明党)
    民間に任せられるものは任せたらいいが、最終的に行政権限を発動する限りは、間違ってないことの裏づけをきちっと持った上で発令していくということになりますので、行政と、そして環科研が一体となって成し得ていくもの。
    正確に積み重ねたデータと研究、そして黙々と市民の生活・安心・健康を守ろうとするその蓄積というのは、失ってしまえばもう二度と取り返すこともできない。
  • H27/10/2 山田議員(公明党)
    両研究所の役割は明確に分かれておりまして、二重行政というものではない
    環科研は衛生研究所と環境研究所の機能をあわせ持つことが強みであり、機能を維持し、充実させる必要がある。
    広範囲の連携に取り組んで、両研究所のさらなる連携強化を図っていくべき
    提案の中身が変わってないのでありますから我々の考え方が変わるのもおかしな話。
  • H27/10/2 西川議員(自民党)
    5月の住民投票で都構想が否決された今、政令指定都市である大阪市存続を前提に考えるべき。統合ではなく、両研究所の連携をこれまで以上に強化し、両研究所の機能強化を図ることが重要。
    政令指定都市として責任を持って保健衛生行政を行っていく必要があり、行政と一体となって運営できる環境科学研究所は不可欠である。

8.大阪市会への陳情の提出協力のお願い

 大阪の地方衛生研究所の独法化は、議会でSTOPするしか方法はありません。

 大阪市会への陳情の提出をお願いします。書式等は下記で確認をお願いします。
 http://www.city.osaka.lg.jp/shikai/page/0000002285.html 

記載必要事項)?陳情の趣旨、?項目、?提出年月日、?提出者の住所、氏名(署名または記名押印。)を書いて市会議長あてに提出。
 陳情の提出の締め切り
   平成28年2月12日の午後5時半(必着)
   以降は次の議会の取り扱い。
 提出後の取り扱い 後日行われる常任委員会で審査。
 ※提出された陳情書並びに提出者の住所・氏名については、公表となります。

上記資料のPDF版はこちらをダウンロードしてください。
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