大阪発:環境政策2004
安全・安心・豊かな大阪のまちづくり
永続可能(サスティナブル)な社会をめざして
はじめに・・住民運動が大阪から発信する「試案」
大阪から公害をなくす会は、1971年の会創設いらい一貫して大阪から公害をなくし環境を守る運動をつづけ、その都度、意見表明や政策提起をおこなってきました。
最近では、1998年京都で開かれた地球環境を守るための会議を前にして、みずらの運動を糧としながら同時に多くの人々と力をあわせて理解と行動の輪を広げていきたいと考え、初めて住民運動が大阪から発信する「大阪発:エネルギー政策97(試案)」をつくりました。その後深めた理解をもとに、昨年「大阪発:エネルギー政策2003(試案)」と「大阪発:廃棄物政策2003(試案)」を発信しました。
今回、大阪から公害をなくす会2004年度総会(2004年5月31日)では、標記の「大阪発:環境政策2004(試案)を発信することになりました。大阪で直面している課題を5つの角度から整理し、運動に取り組む視点と感興問題解決への方向性を明らかにするよう努めました。私たちは、先の二つの「試案」とあわせて私たちの運動の糧としながら、多くのみなさんと力を合わせて、大阪を「環境問題で世界の人々の連帯の先頭に立って前進するまち」にしていくための取り組みに全力をあげます。
第1章で大阪が直面している現状と目指すべき政策転換の方向、今日の情勢の中で特に配慮する諸点を示した上で、第2章で次の具体的政策をまとめました。
- .交通政策の大転換 自動車問題の解決を目指す
- 循環型社会の構築 ごみ・産業廃棄物問題に取り組む
- 有害化学物質の規制 世代を超えた汚染の未然防止を
- 自然の緑あふれるまちづくり 生態系保全を視野に
- 地球温暖化防止への貢献 エネルギー源の転換・使用量の削減
第1章 地球環境を視野に根本からの政策転換を
大阪では、自動車公害対策が進まないので、ダイオキシンや環境ホルモンの汚染、シックハウス、食品汚染、廃棄物など、私たちの生活をとりまいて健康被害と環境汚染が広く深く進行しています。その中で、高速道路建設や大阪湾の埋め立てが続き、周辺部は緑を削る開発、都心では「都市再生」の名による新たな乱開発が計画されています。ヒートアイランドで大阪都心部の夏は耐え難い気温になっていますが、日本や世界の各地でも「地球の温暖化」による異常気象が増えています。
このような環境破壊と生活危機の根元には、自分たちの儲けのために、山を削り海をつぶし、住民の反対を無視して高速道路づくりを強行し、自動車や使い捨ての資源浪費の商品を売りまくってきた大資本中心の開発・生産、さらにそれを支え、市民の税金と借金をつぎ込んできた自治体の施策があります。ですから、この根元を変える方向を目指すこと、それがいま市民に問われている課題です。
私たちは、生活の安全と環境を守ることをすべての施策の土台にすえ、開発優先のいままでの政策を大きく転換し、誰もが健康で安心して住みつづけられる大阪を目指します。「震災に強い大阪を」「公害道路はいらない」「安全で環境を破壊しない商品がほしい」「資源回収とリサイクルに企業と行政が責任をもって」「自然を守り回復したい」と願う多くの市民と協力し、とりくみを励まし、一緒になって環境破壊の元凶をきびしく追及するとともに、かけがえのない地球環境を守る世界的なとりくみに積極的に貢献したいと考えます。
こうした取り組みをすすめ次章に見る政策を実現していく上では、今の情勢の中で特に以下の諸点に配慮する必要があります。
第一は、環境が許す限度内で経済の発展を考えるという原則です。
最近、行政や経済界の発言で「環境と経済の統合」と言う主張が目立ちます。この言葉が歴史の教える原則を抜きにして、環境と経済の両立をはかるという意味で使われるとすれば、70年代の公害激化の原因となった「環境と経済の調和」論の現代版です。すでに地球環境の枠がこれ以上の負担に耐えきれない情況のもとでは、資源の消費を減らすことが大事ですし、環境の枠が許す限度内で経済の発展を考えるという基本を確認し厳守することが求められています。
第二は、公共投資の内容を環境・生活重視に大転換していく問題です。
現在の環境対策は、大量生産・大量消費・大量廃棄の生産と消費のあり方を抜本的に転換することを目指すとしています。そのためには、生産や消費を方向付けている制度、さらには人々の習慣や考え方まで変えていく抜本的な対策が求められています。その中でも今強調する必要があるのは、人間の活動の物質的な枠となる公共投資の内容を、経済の発展、経済効率追求、資本の利益本位から環境の保全と、自然との共存、人と人との交流、文化的環境の整備などの豊かな人間生活の条件確保の内容に大きく転換して、大阪のまちをエネルギー使用が減り、ゴミの排出が少なくなり、自然が豊かなまちの構造に作り替えていく公共投資の大転換です。
第三は、徹底した情報公開と住民参加によって環境政策、環境計画を民主的に策定、追及する問題です。
環境問題は生産と消費のあらゆる人間活動がかかわる問題ですから、安全な環境をつくる市民の意識的な活動が欠かせません。環境問題の現場である地域でのまちづくりの取り組みに市民が参加していく制度をつくり、住民運動やボランティア活動を支援して、市民の運動と意識を発展させ高めていくことが必要です。情報公開と市民参加による民主的な目標設定とその追求、検証を繰り返すなかで、多くの市民や団体、さらに企業を結集した取り組みが可能になります。そしてこのような取組の強化と次の世代への着実な引き継ぎのために、学校、社会での一貫した環境教育が欠かせません。
以上の総合的な環境政策を民主的に推進するためには、市民の視点で行政施策や公共事業を環境優先の立場から点検・評価・総括する制度が必要です。よい環境を守り実現しようと考え行動する市民の知恵と力を広く結集できるような制度として育てる必要があります。
第2章 5つの角度から見た愚弟的政策
1.交通政策の大転換 自動車問題の解決を目指す
大阪では、今なお1万人近い公害認定患者が公害病に苦しんでいます。その上、大気汚染がいっこうに改善されず、新たなぜん息患者が増え続けその罹患率は大阪氏が全国平均の4倍、大阪府域(大阪市を除く)で2倍になっています。自動車排ガス測定局では、西淀川区43号線沿いと今里交差点が全国ワースト10に名を連ねるなど、現在の大阪の大気汚染の元凶は自動車排出ガスにあります。しかし現在の自動車排出ガス対策は、ゆるめられた環境基準さえ達成できない欠陥対策です。
自動車交通が引き起こす問題は、排気ガスによる大気汚染と健康被害だけではありません。騒音や交通事故、移動の自由がままならないまちの構造、温室効果ガスCO2(二酸化炭素)などの増大による「地球の温暖化」なども早急に解決が求められています。
11.CO2削減のためにも自動車交通の総量削減が求められます。輸送の鉄道や他の交通機関への転換、交通弱者のモビリティ(交通・移動の権利)の保障を目指す交通輸送政策の抜本改革、交通問題を総合的に扱う行政組織の創設が必要です。
12.道路を増やせば当然自動車走行が増え排ガスや騒音が増えます。現在の自動車道路計画は、まず凍結し、交通流の改善、地下化、道路跡地のオープンスペース化、沿道の環境公害対策など、環境と防災、交通安全の面かから、道路政策の抜本的見直しが必要です。
13.市民の意見・要求を入れた自動車排ガス対策のための計画づくりは市民参画が欠かせません。
14.自動車排ガスによる公害被害者を救済・支援する制度づくりのために、有効性のある本格的な自動車排ガス健康被害実態調査が必要です。
2.環境型社会の構築 ごみ・産業廃棄物問題に取り組む
水源に近い山間部や海面に建設している廃棄物最終処分場は、土壌・水質(海洋)・大気・生活環境・生態系全体への影響など、計り知れない環境汚染を潜在させるとともに、廃棄物問題の解決を先送りし、その解決をますます困難なものにしています。
廃棄物の発生そのものを抑えるために、リュース(再使用)を基本に、リサイクル(再資源化)、再生利用などを実効あるものにすると同時に、廃棄物の処理、処分の過程における環境汚染を防止する対策が急務です。
大量生産・大量消費・大量廃棄という経済構造の枠内でつくられる「循環型社会のための」法律や自治体の施策は、廃棄物発生以降の処理・処分の解決に目をむけたものであり、製品設計・生産・流通段階にまでさかのぼる視点に欠け、むしろ、大量焼却・大量リサイクルという新たなエネルギー浪費を生み出しています。
廃棄物政策をおおもとからあらため、資源の使用量を最小化しエネルギーの浪費をなくす本来の循環型社会を、行政、事業者、市民が力を合わせてすすめることがひつょうです。
21.再資源化を実効あるものにするため、長年続けられてきた混合収集、焼却万能主義を根本的にあらため、「分別収集」「区分処理」方式の導入が求められます。
22.大量生産・浪費型経済の同一線上にある熱回収など、まやかしの「エコ技術」ではなく、本来の資源有効活用に資する個別処理と再利用を推進することが必要です。
23.家庭ごみでは、ごみ発生抑制やリサイクルに取り組む住民運動、再資源化業者と力を合わせ、リサイクル事業の飛躍とグリーン購入の推進が求められます。
24.産業廃棄物と事業系一般廃棄物が、廃棄物発生量の9割を占めます。製品設計・生産の段階から最終処分まで企業が責任をもつ、『拡大生産者責任』が果たせるよう、減量化と安全化をめざす製造者・流通業者・排出企業・処理技術者の協力が必要です。
25.「合わせ産廃処理」の法整備がすすんでいます。廃棄物処理施設の設置基準の法制化など生活環境汚染を未然に防止する対策が必要です。
26.陸地、山間、海面を問わず、埋め立て処分場の新たな計画を凍結し、再処理・圧縮・かさ上げなど既設の処分場の延命を図ることが必要です。
3.有害化学物質の規制 世代を超えた汚染の未然防止を
ダイオキシン排出量は、特別措置法施工後に大量に消滅させましたが、大阪府域では汚染地域がひろがっています。2003年12月環境省発表の「環境調査報告書」では、大阪府内の大気濃度を最大値でみると、基準値の3.3倍にあたる高濃度を検出した住吉区民ホールはじめ、9地点で基準を上回っています。水質濃度では、土佐堀川など7つの河川で、基準値を2〜3倍も上回っています。
ダイオキシンやPCB処理をはじめとする有害化学物質の汚染は、大気、土壌、地下水、大阪湾など、どれをとっても深刻で、ごみ廃棄物の減量対策やこれまで環境に蓄積された化学物質への対策が重要です。
化学物質の健康被害は、急性毒性・慢性毒性・発ガン性に加えて、生殖機能への影響などが明らかになり、人類の存続を脅かす事態となっており、緊急に次の対策を実施することが求められています。
31.大型化する焼却炉の危険性を直視し、安全対策とそのあり方を根本的に見直すとともに、ダイオキシン対策で廃炉になっている一般廃棄物焼却炉および産業廃棄物焼却炉について、綿密な現状調査と処分計画が必要です。
32.大企業の工場跡地および既設の廃棄物埋立て場などの土壌汚染の回復、監視を、自治体の指導性を確保の上、情報を公開し、企業・市町村責任ですすめる必要があります。
33.地域の公衆衛生と生活環境衛生の砦「保健所」と、公衆衛生研究所などの研究機関を充実強化し、食べ物の安全確保など市民住民の健康を守る役割を果たせるものにすることが求められています。
34.大阪府の環境情報センターは、研究機関としての役割を果たす体制になっていません。環境の監視はますます重要になっており、信頼度の高いデータと情報提供が可能となる強力なスタッフがいる環境部門の研究機関が必要です。
35.PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)の施行に対しては、これまで発生源対策の主体であった自治体の役割を明確にし、化学物質の危険性に関する情報や、個々の事業所の使用・排出に関するデータを住民に全て公開することを基本とすることが必要です。
4.自然と緑あふれるまちづくり 生態系保全を視野に
三方の山と淡路島に囲まれ、汚れた空気やよどみやすい大阪の地形では、公害対策とあわせて、市民に安らぎを与え、新鮮な空気をつくりだす森や林を守り回復させることが特別に重要な意味を持っています。また、大阪湾のなぎさを回復させ、河川やため池は水に親しめるよう整備し、里山の維持につとめて、市民が日常的に自然に親しめる条件をつくり出すことが大切です。
大阪府は、水と緑の健康都市関連の開発計画をいったん撤退を表明しながら再開しました。関空二期事業や安威川ダムなどの巨大な開発計画を見直し、防災対策と生態系保全を視野にいれた、つねに水と緑と昔から生息している生物に触れられ、自然と緑あふれるまちづくりへの転換を目指すべきです。
41.市街地での公園、緑とオープンスペースを確保するため、公有地、企業遊休地の活用、居住地での緑のほごと創出につとめ、市街地農地を貴重な空間として積極的に維持する施策が必要です。
42.琵琶湖総合開発や水道事業民営化の動きを見直して、安全でおいしい水を飲めるまちをめざし、淀川水系に集中した水源の見直し、各河川水源地域の緑や生活用水としての地下水確保など、総合的な水源対策が必要です。
43.予想される東南海・南海地震などを視野に入れ、特に活断層や湾岸部など軟弱地盤を中心に防災対策を根本的に見直すとともに、防災計画と環境保全計画を重要な柱と位置づけて、災害のない安全な都市づくりをめざすことが必要です。
45.都市計画審議会の構成と運営を市民の意向を反映できるものに改め、市町村・地区の土地利用計画を住民参加で確立することが必要です。環境影響評価制度は計画の段階から住民が検討に加わり、代表案の検討や計画の中止も含めて決定できる制度に改めることが急がれます。
5.地球温暖化防止策への貢献 エネルギーの転換・使用量の削減を
世界の人々が大阪府民並のエネルギー量を使えば世界のCO2排出量は数倍に増え、地球環境はたちまち人類の住めないように破壊されてしまいます。世界のGDPの1.3%を占める大阪は、地球の環境保全に大きな責任を負っており、市民共同の取り組みを発展させ世界にさきがけて温室効果ガスの削減に取り組む必要があります。
51.京都議定書の削減目標(日本は1990年に比べ6%削減)を達成するに相応しい大阪のCO2等の削減目標を決め、産業別、企業別さらに地域(自治体)別の目標を示して、それぞれの主体が役割に応じた責任を果たす必要があります。
52.安全で再生可能なエネルギー普及の体制を強める必要があります。太陽光発電、太陽熱利用、風力発電、小型水力発電、バイオマス発電などの自然エネルギー利用、熱と電気を効率よく利用できる伝熱併合(コージェネ)発電設備の普及などが求められています。
53.省エネルギー対策を抜本的に改め、大阪のまちの構造(住宅、交通機関、街路、共同利用施設、公共施設など)を省エネルギー型に変えていく長期の目標を立てて計画的に追及することが必要です。
54.モノ作りの出発点である企業の役割を重視し、生産した商品の使用から処分まで責任を負う『拡大生産者責任』の考えに立って、エネルギーやモノの消費を増やすような宣伝や商品の生産を控え、安全でエネルギー消費の削減に繋がる商品、部品の開発普及に向かうような制度や枠組みを市民合意で検討しつくり上げる必要があります。電力自由化にともなう価格競争の中で電力会社は、夜間電力機器やオール電化住宅の売り込みなど電力販売量を増やすために必死ですが、およそ省エネルギー利用という視点からの見直しが求められています。
55.積極的な情報公開(提供)で市民が地球環境の保全に繋がる行動や商品の選択ができるような制度や慣行をつくり上げていくことが求められています。
大気汚染状況に対する私たちの見解 [2009.6.11] |
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