東北地方太平洋沖地震を契機とする
福島原発の炉心損傷事故について
2011年3月16日
日本科学者会議エネルギー・原子力問題研究委員会
2011年3月11日14時46分ごろ発生したM9.0の巨大地震(平成23年東北地方太平洋沖地震)を契機に東京電力福島第一原子力発電所及び第二原子力発電所で冷却材喪失事故が起こり、事態は現在なお進行中である。これまでの情報によると、第二発電所で運転中であった、1,2,4号機はほぼ冷温停止に向かいつつあるが、第一発電所で運転中の1,2,3号機はいずれも停止の際の原子炉冷却に失敗した。1号機では13日13時ごろ、3号機では14日11時ごろ水素爆発が発生し原子炉建屋の一部が破壊された。また2号機では15日6時ごろ圧力抑制プール(サプレッション・チェンバー)付近で爆発があり格納容器の一部が破壊された可能性がある。こうした爆発などに伴い、周辺のモニタリングポストで数ミリシーベルト毎時の放射線量率が検出されている。政府は、こうした状況などを受けて、12日に第一発電所の半径20km圏内、第二発電所の半径10km圏内の住民に避難の指示を出した。14日には定期点検のため停止中であった4号機で火災、爆発があり、モニタリングポストも最高400ミリシーベルト毎時というきわめて高い値を検出した。15日には新たに第一発電所の半径20km〜30km圏内の住民に対する屋内退避の指示も出されている。
今回の事故は、いずれも地震動により制御棒は挿入され、核分裂反応は停止したが、核分裂反応停止後の発熱(崩壊熱)の除去を行う冷却系が機能しなかったため、炉心の温度が上昇し、燃料被覆管と水が反応して水素を発生するなどの経過をたどる、典型的な冷却材喪失事故である。地震による外部電源喪失、冷却機能喪失などの事故の可能性は1990年に米国核規制委員会(NRC)が確率論的リスク評価の手法を用いて、発生確率が高いと警告していたシナリオ(NUREG-1150)に極めて近い形で進行している。また、1979年に発生したスリーマイル島原発事故は、地震が契機ではなかったものの軽水炉の典型的な冷却材喪失による重大事故(シビアアクシデント)であり、今回の事故は水素爆発の発生など、大変よく似た経過をたどっている。
今回の事故はM9.0という世界最大規模の地震の直撃という不運はあったものの、東京電力がこれまでの事故の教訓や警告を真剣に受け止めていれば、事態はより軽い経過をたどったものと考えられる。その意味で東京電力の責任は重い。
日本科学者会議エネルギー・原子力問題研究委員会はこれまでも地震と原発の危険性については繰り返し指摘・警告してきたが、電力各社や政府・規制当局は耳を傾けようとしなかった。現在事故が進行中なので、原子力政策や事故対応などの評価はおくとして、以下に、当面必要なことを述べる。
(1)事故情報の公表について;東京電力の事故情報の公表の遅滞については各方面からの批判が集中しており、政府はこのため同社との共同対策本部を立ち上げたとされる。同社の隠蔽体質は依然改められていない。生データは速やかに公表し、その評価は専門家にゆだねるべきである。
(2)上述したように過去における最大の冷却材喪失事故であるスリーマイル島原発事故の教訓を、これからの事故処理に生かすべきである。
(3)避難に関しても、推定されるリスク(被曝リスク)と避難によるディメリットとを明らかにして、そのバランスに立った上での説得力のある指示を出すべきである。
(4)事故解決の基本的方針を明らかにして、国民の協力を仰ぐべきである。
(5)当然、事故が収束した後の原子力発電の在り方が問題になる。我々はこれまでの原子力政策、企業の体質、原子力行政にあり方などに対して、改めて問題提起を行うが、「最低限、地震の発生が予想される立地サイトでの原発の即時廃止、老朽化原発の即時廃止を行うべき」であると考える。「のど元過ぎれば暑さを忘れる」というこれまでの原子力政策の愚を繰り返してはならない。その上で地震国日本での原子力利用について根源的な議論がなされるべきである。
以上
「東日本大震災の被災者救済、避難・仮設居住に関する第1次提言」の提出について [2011.3.23] |
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