里山の自然環境を保全し生物多様性を守る取り組み
信太山に里山自然公園を求める運動
信太の森FANクラブ代表 花田茂義
1, 里山自然公園を求める運動とは
和泉市の北部から堺市の北西部に位置する信太山丘陵は、海抜40m〜80mのなだらかな丘陵(台地)が約300haにわたって広がっている。その大部分を戦前は陸軍、戦後は自衛隊が演習場として管理してきた。そのことが、開発の歯止めともなり、演習場内外の耕作地の存在ともあいまって大阪府下を代表する生物多様性に富む貴重な自然環境を残してきた(大阪府における絶滅危惧植物のホットスポット)。特に、点在する小さな湿地と草原(写真1)がこの丘陵地を特色づけている。
2004年、和泉市は演習場内に点在した民有地を買い取り、防衛省と交換する手法で演習場内の16haの用地を取得した。その土地の利用計画は「北部公共施設事業」として大型スポーツレクリエーション施設(野球場・多目的グランド・テニスコート・駐車場など)が例示的に示されていた。しかし、和泉市の財政事情により2005年度から5年間この事業計画は凍結されてきた。
2010年、和泉市は「和泉再生プラン」を策定し、「北部公共施設事業」は整備費を抑制(当初計画の半減)して2013年度より5ケ年計画で着手すると位置づけ、2011年度と2012年度をあり方の検討期間と定めた。
当該市有地(16ha)は、信太山丘陵を代表する湿地や草原を含み、この部分だけで約30種の絶滅危惧種の生物が生息している。もし、大型開発計画が実行されるならこれら貴重な里山的自然環境は壊滅的に破壊されることは明らかであり、私たちは、計画の変更と自然環境の保全と活用を求めて(仮称))「信太山里山自然公園」の実現をめざして運動を展開している。
2, 2011年の取り組み
【1】 「信太山に里山自然公園を求める連絡会」の結成 2010 / 12 / 5
2010年12月、信太の森FANクラブなどが呼びかけて連絡会が結成された。和泉市内外の自然・文化保護団体、企業、サークル、労働組合をはじめ大阪自然環境保全協会や日本野鳥の会大阪支部などの参加もあり府下的な広がりも見せている。現在15団体が参加している。
今年度の取り組みは連絡会を中心として展開し、以下に述べるような画期的な成果を残した。
【2】 「要望署名」「請願署名」運動 2011/ 4月〜8月
和泉市が事業計画を検討するという時期を迎え、4月以降、連絡会は2つの署名に取り組んできた。
議会への「請願署名」と市長への「要望署名」で、それぞれ次の事柄を要望した。
議会への請願 :
「生物多様性基本法」の精神、「和泉市環境基本条例」等にのっとり、信太山丘陵の市有地(16ha)の野生生物の生態系を保全し、里山的自然環境の保全を図ること」
市長への要望 :
1,(市議会への請願と同じ)
2,該地域を「里山自然公園」として活用を図ること。
3,当該地域に計画されようとしているスポーツ施設は他の場所で実現に努めること。
8月24日に和泉市議会、和泉市長へそれぞれの署名を提出した。
和泉市議会への請願署名 10,368筆
和泉市長への要望署名 10,763筆
署名数は当初の予定数を大きく上回り、どちらも1万筆を超えた。連絡会参加団体や連絡会会員や協力者の奮闘があった。「公害環境デー」の参加団体からの署名にも勇気をいただいた。署名に協力いただいたすべてのみなさんに改めて深く感謝を申しあげます。
連絡会としても初めて街頭に出て、13回に及ぶ駅頭や商店街で署名を呼びかけた。その際の宣伝リーフレット(写真2参照)2万部は大阪自然環境保全協会の支援で作成した。
提出した「要望署名」を前に辻宏康和泉市長は、「1万人の署名は重く受け止める」「私も署名活動をしたが1万人はすごい」「8年間、見直しはしてこなかったので今どうしますとは云えないが自然を残しながらどう活用していくか考えていきたい。」と述べた。
【3】 和泉市議会 自然環境の保全を求める請願を採択 2011/ 9/ 30
和泉市議会へは、請願人を立て(連絡会会長)署名簿を添付し、3名の紹介議員を経て提出した。9月市議会「都市環境委員会」で付託審議されることになった。
9月15日:
和泉市議会 都市環境委員会が開かれ、市議会始まって初の請願人の意見陳述が行われた。(条例改正で請願人にも意見陳述を認めることになり第1号)
委員会採決の結果、7名の委員の内賛成3名となり少数不採択となった。
9月30日:
和泉市議会 本会議 都市環境委員会報告を受け、賛否討論の上採決。
22名議員中 賛成12名 (反対10名)・・・賛成多数により採択
賛成政党・会派:レインボいずみ(3名) 日本共産党(3名) 公明党(5名) 五月会(1名)
僅差ではあったが和泉市議会は、「信太山の自然環境の保全を図ること」を議会の意志として
示した。国際的にも自然環境が課題となっているとき、和泉市議会はからくも見識と良識を示し
たといえる。開発賛成派からの厳しい切り崩しにも勇気を持って賛成していただいた議員もあっ
た。賛成していただいた議員諸氏に深い敬意を表します。
市議会の請願採択は、和泉市にとっても、私たちにとっても画期的な出来事であったといえる。
大きな一歩であることは間違いないとしても(仮称)「信太山里山自然公園」の実現までには予
断を許さない状況は続いている。
【4】 連絡会主催 「信太山丘陵を守る市民の集い 2011」 2011/ 12/ 4
9月3日に準備した集会は、台風接近・暴風警報発令のため中止を余儀なくされ、それに代わるものとして、12月4日「信太山丘陵を守る市民の集い 2011」を開催した。
ところ:和泉市立和泉図書館集会室
基調講演:「信太山の保全について」森本幸裕 京都大学大学院教授 緑地学
「市民の集い」は2010年に続いて2回目、集会では、森本幸裕京都大学院教授が、信太山の湿地を調査研究した成果にふれながら各地の里山の状況や保全の課題などを講演。今後の課題についていくつかのヒントをいただいた。署名運動や請願採択の経過報告、信太山を歌ったフォークソングの発表があり、熱い意見が交換された。参加者80名。
【5】 環境省「モニタリングサイト1000」に参加 2011/7月 12月
環境省が全国1000ケ所のモニタリングサイトを選び、100年間の長期にわたって環境を調査する事業に日本野鳥の会の依頼で参加。信太山丘陵の市有地を含み5ケ所を定め「草原の野鳥」のサイトとして受諾。夏期(7月)と厳冬期(12〜2月)に調査を行った。
3, これからの課題・方針
和泉市が事業計画を検討するとしてきた最終の2012年度を迎える。要望署名、議会請願採択などを受けて市がどのように計画を変更するか注視せねばならない。まさに正念場とも云える重要な年を迎える。一層、智恵を結集しながら後世に悔いのない取り組みを進めたい。
また、FANクラブは連絡会に結集して行動しながら、里山自然公園にむけて主体的な力量をたかめる課題もある。さしあたってNPO組織の立ち上げを準備していきたい。
毎月、第4日曜日の午前中は現地の調査・観察会を予定。(問い合わせ0725-44-8404 花田まで)
引き続きご支援を訴えます。
信太山に里山自然公園を求める運動
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