道路をめぐる新たな動きと住民運動
道路公害反対運動大阪連絡会
事務局長 高本東行
1、道路問題をめぐる新たな動き
大阪における道路行政はすでに着工している高速道路建設の推進とともに、安倍内閣の「国土強靭化法」の成立を受けて、凍結されていた高速道路建設の復活や新たな道路建設が強化されようとしています。具体的には関西再生を目標にした4環状ネットワーク(大阪都市再生環状道路・大阪環状道路・関西中央環状道路・関西大環状道路)の構築や、関西の道路ネットワーク(ミッシングリンク整備の遅れ改善)をめざして、凍結されていた「新名神高速道路」の未着工区間の復活や「淀川左岸線延伸部計画」の復活、名神湾岸連絡線、大阪湾岸道路西伸部等、高速道路建設などです。
2、大阪における道路公害反対運動
大阪では阪神高速?を中心とした高速道路の建設がすすめられ、道路予定地や沿線では道路公害に反対する住民運動がこの間粘り強く進められてきました。
(1)「阪神高速淀川左岸線一期事業」と此花区民の運動
「阪神高速淀川左岸線」は阪神高速湾岸線から第2京阪道路までの間を結ぶ道路で、一期事業は此花区北港2丁目から此花区高見1丁目まで5.7?で、2013年5月には此花区島屋から福島区海老江区間が完成し供用を開始しています。
この28年間、此花区では「此花区正連寺川区民の会」を中心にした町ぐるみの運動が取り組まれ、当初の掘割構造からフタかけ(トンネル構造)に都市計画を変更させ、島屋、大開換気所には、「換気所周辺の環境を悪化させないため」、環境省が示している「非悪化原則」に沿ったものとして「脱硝装置」の設置を阪神高速に実現させました。
又、現在は大阪市の基本計画をもとに高速道路屋上に、正連寺川「花と水と緑の公園」をつくる運動が区民的な運動として進められています。
(2)淀川左岸線2期事業の現状と住民の運動
淀川左岸線2期事業(此花区高見1丁目〜北区豊崎4.3?)については2021年4月の供用開始をめざして、用地買収も98%完了しています。しかしこの間、阪神高速道路公団の民営化による事業の遅れとともに、東日本大震災の教訓から淀川堤防と道路の安全性及び施工方法についての問題点が明らかとなり、現在「2期事業に関する技術検討委員会」が設置されて検討を進めていますが、審議が大きく遅れ結論に至っていません。
2012年度国土研調査報告書によれば極めて高い確率で起こる南海トラフ地震による津波、地震、液状化などは淀川堤防と堤防に埋め込まれる高速道路の安全性に重大な影響を及ぼすと指摘しています。そして国民の生命を守る観点から国土交通省、大阪市は先に事業ありきの姿勢を改め、情報の開示・共有を行い、市民と共に計画の抜本的な見直しを進めることを提言しています。「中津リバーサイドコーポ環境を守る会」と「淀川河畔に公害道路はいらない福島区民連絡会」はこの間、情報を共有しながら運動を進めていますが、特に中津リバーサイドコーポでは「大阪府公害審査会調停委員会」に問題を提起し、大阪市に対しても情報公開の裁判や脱硝装置の導入、南岸線の大型車規制など対策を求めて粘り強い働きかけをすすめています。
(3)淀川左岸線延伸部の現状と住民の運動
延伸部は北区豊崎から門真市稗島まで約10?の高速道路で事業中の大和川線、淀川左岸線、及び整備済みの湾岸線近畿自動車道をつなぐ延長60?の「都市再生環状道路」を形成する道路です。又、延伸部計画は不採算を理由に2006年12月以降凍結されていましたが、2013年1月に解除され、関係区・市において「環境影響評価方法書」の縦覧開始・方法書の説明会が開催され、意見書の提出が求められる等、「都市計画決定」に向けての準備が進められています。この道路はそのほとんどが地下40m以深に掘られるトンネル構造であり、3000億円〜4000億円ともいわれる莫大な費用をともなうものです。
現在、「淀川左岸線延伸部工事と町づくりを考える会」を中心に道路構造の安全性の危惧、排気ガスによる大気汚染、そして税金の無駄使いの問題などから、事業の中止を求めた運動がはじまっています。
(4)「阪神高速大和川線」の現状と住民の運動
大和川線は阪神高速湾岸線と松原線をつなぐ全長9.9?の道路で「大阪都市再生環状道路」の一部を構成する道路です。すでに一部は供用が開始され、全線開通は2014年末の予定とされています。
地元堺市内では「高速道路から子どもを守る会」が結成され、きれいな空気ときれいな水を、子どもたちの笑顔のためにと「脱硝装置」の設置を求めて署名運動や事業主体である阪神高速?、大阪府・堺市に対する要請行動に取り組んでいます。
(5)「新名神高速道路」の現状と住民の運動
2006年に事業の着工が凍結されていたこの道路(事業区間は三重県四日市市から滋賀、京都、大阪を経て神戸につなぐ高速道路、府下では枚方市、高槻市、箕面市)は2012年事業が認可されました。目的は大都市間ネットワークの強化と現在の名神高速道路の補完が主とされています。
2013年1月に発足した「ひらかた新名神を考える会」は個人会員76名、団体5会員で学習会や予定地の見学会、国土交通省宛の署名にNXCO西日本や国交省、大阪府などとの交渉に取り組んでいます。又、道路予定地の京都府八幡市〜大阪府高槻市区間では、道路が淀川河川敷にある「鵜殿のヨシ原」上を横断するとされ、雅楽に必要不可欠な良質のヨシ(=葦)が採取できる、貴重な唯一の地域であることから「鵜殿のヨシ原の保全」のために建設計画の見直しの運動が著名な雅楽演奏家や文人などを中心に広がっています。
(6)高速道路「大阪泉北線計画」廃止後の跡地に「風かおる“みち”」をつくる運動
「阪神高速大阪泉北線」の計画廃止にともない新設されることになった都市計画道路「天王寺大和川線」はJR阪和線の側を縦断する5.5?の街路です。この街路の計画にあたっては「風かおる“みち”」をコンセプトに地域協働の取り組みとするため「天王寺大和川線みち、みどり会議」がつくられ、関係する地域や専門家、大阪市がそれぞれの役割を担って学習や意見交換がはかられ検討が進められてきました。
「道路公害に反対し東住吉区の環境を守り街づくりを考える連絡会」も当初からこの「会議」に参加してきました。2004年以降続いてきたこの取り組みは紆余曲折を経て2013年9月「みち、みどり会議」構成員を対象にした「天王寺大和川線計画説明会」が開催され、2014年度からJR駅周辺の設計、地元調査を開始し、2017年度から一駅ごとに街路づくりに着手、2022年に完成させる予定とされています。連絡会は引き続き住民の要求をこの計画に反映させ、みどり豊かな環境づくりを進めていくとしています。
(7)「阪神高速湾岸線」の騒音・粉塵被害の解決を求める府営なぎさ住宅自治会の運動
阪神高速湾岸線の西18.5mに近接する「府営なぎさ住宅(泉大津市12階建326戸)」では湾岸線の延伸や関空の拡張などによる交通量の増加により騒音、粉塵被害が我慢の限界を超えるものとなり、住民からの苦情や転居が相次いでいます。これに対して住宅自治会は2012年5月に泉大津市に相談し住宅9階の騒音測定を実施させましたが限度ギリギリでやむを得ないものとされました。しかし、自治会は納得せず「道公連」と相談し独自の調査を実施した結果、11階では基準値を超えていることが判明、改めて市に再測定を要請した結果、昼間、夜間共に基準値を超えていることが実証されました。
自治会は2013年度に入って「住民アンケート」を実施し深刻な被害の実態をまとめ、阪神高速?、大阪府、泉大津市と交渉を重ねています。現状は三者ともに被害の実態は認めているものの「防音壁の設置」や「防音塗装」等については明らかにされておらず、さらに抜本的対策を求めていくことにしています。
以上
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